紅蓮のゆうび’s Diary

役に立つ、読みやすい、ように努めるただの日記。

22 泉谷・ヒサネ

 

 

 

結局退院後、初日はバイトすることになった。天童さんには連絡していない。連絡先を持っていなかった。看護師には反対された。

 

はぁ...

 

肩の痛みはない。腹の開腸なんてはなっからなかったように脈打つ。

 

「失礼ですが『ノナメ(いつは)』さんですか?」

 

ノナメは俺のネットの名前

 

「は。はい。だれですか?」

 

そこにいたのは紛れもない女性俺に女性の知り合いは今んとこ天童さんとキララさんしかいない。

 

「友」

 

その単語は耳に馴染む。友とは俺が今日待ち合わせしている相手の疑似ネーム。

 

「あの...ネットの?」

 

それが本当だとしたらこの人に対して下ネタ言いすぎている。

 

「本名、久音」

 

嘘であってくれ。

 

「え? え? え?」

 

「僕がよく使うキャラはミント」

 

驚いた...

 

「驚いていないでいくず」

 

「お、お、おう」

 

まさか友が女性だとは

 

その日は虹ヶ丘遊園地でチケット配布のアルバイトをした。

 

遊園地の受付アルバイト

 

後半人形着せさせられた。クソ暑かった。

 

そして限定品のヌコヌコストラップを手に入れた。

 

いらね〜。

 

==========

 

 

 

気をつけると良いよ。最近殺人が増えているから。

 

「お前まで変なフラグ立てないでくれる?」

 

「フラグじゃない。イツハの近所で本当に多いんだ。あとお前じゃなくて『友』か『ヒサネ』」

 

「そうか」

 

「ねぇ。」

 

「え?」

 

「よそよそしくない?」

 

「いいえ」

 

「ほら、敬語なんか使っちゃってさ」

 

「え?」

 

「ネットでは使ってなかったじゃないか」

 

「そのね」

 

「今日ずっとそうじゃないかい?」

 

「えっと...」

 

「ノナメがこんな凡人だとは思わなかったよ」

 

ヒサネの雰囲気が変わる。

 

畳み掛けるねぇ...

 

「...」

 

「女性の風貌をしていたのがそんなにがっかりだった?」

 

ガチなやつやん。

 

「いいや...おどろいてね」

「なにが?」

 

「シュークリームの中身がアイスだった時の感覚」

 

とりあえずお茶を濁す

 

「...僕は知覚過敏なんだ」

 

乗ってくるんかい。

 

「あぁ俺もだ」

 

「...」

 

「時折思う。人類にとって身体から毛がなくなったのは進化なのか退化なのか...」

 

とりあえず続けて変なことを言っておこう。

 

「それは、目的によって変わるよ」

 

俺のこの目的も、あるいは気づいてくれているのか。

 

「そうか、俺はどうありたいんだろうな」

 

「...」

 

「少なくとも今まで通りの方が、俺は楽だな」

 

「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」

 

「一時間の浪費をなんとも思わない人は、人生の価値をまだ発見してはいない」

 

「...気をつけてね」

 

「ありがとう」

 

とりあえず温度感下がったわ。

 

「どうせ機会ないだろうし、僕でオナニーしておく?」

 

「本当フランクだよなお前」

 

今日会ったばかりだというのになんだその態度は。

 

いや、いつもこういう会話をしていたはずなのだ。

 

 

 

 

 

 

「今日は泊まって行こう」

 

「すまん、明日は学校なんだ」

 

「そっか。じゃぁまた」

 

「おうサンクス」

 

という会話を最後に俺らは後にする。

 

 

 

全く、男だと思っていた旧友がまさかの女性だったとはな...色々寂しいな。なんか、俺の不順応も順応も。俺の心も感情も。あいつの苛立ちも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんかめっちゃゾンビの着ぐるみがだるそうにしてる。そりゃゾンビだからな。

 

「あのー、大丈夫ですか?」

 

「!」

 

ゾンビはこちに気づくと口に何か持っていくジェスチャーをした。

 

「水か」

 

自販機でお水を購入してゾンビに渡す

 

「ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ」

 

「だぁーーぁーぁー」

 

なんなんだこいつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

21ヴァリスⅡ

 

 

 

 

自分が今生きている目的を決して忘れてはならない。それを忘れてしまわないように、全力を行動で尽くしていく。

 

==========

 

 

 

 

「お名前...何でしたっけ」

 

 

ヴァリスだとも、マイロード」

 

 

イラスト

 

 

病院を退院した瞬間に吸血鬼と出会した。

 

 

なんだマイロードって。

 

 

「助けにいけなくて悪かったね、イツハ君」

 

 

「何のことでしょうか」

 

 

「襲われたんだろう?」

 

 

「はい。え、みていたんですか?」

 

 

俺が殺人鬼にボコられていた現場を。

 

 

「いいや。その状態を見ればわかるよ。誰かに傷つけられたのだろう?」

 

 

「まぁ...そうですね。危ないところでした」

 

 

「次は駆けつけるよ」

 

 

いや、別に駆けつけてもらうような間柄じゃないけど。

 

 

「は、はぁ」

 

 

「ん? その顔は何か引っかかっているのかい?」

 

 

「いや、なんかそこまでしてもらう真柄でもないからなぁ、と思いまして」

 

 

「なにをいうんだ、僕は君から血を分けてもらった仲だよ? それは十分に、尽くすに値する」

 

 

「そんなもんですかね」

 

 

「そうだとも」

 

 

「...血ぃ、吸います?

 

 

「いいのかい? ...と言いたいところだが、君の体調が万全になってからいただくよう。ありがとう」

 

 

「普通に、いい人なのかな?」

 

 

「それは普通、口に出さない事なのでは?」

 

 

口に出ていたのか。

 

 

「ちなみにお見舞いには来てくれなかったんですね?」

 

 

あからさまに話題を変える。

 

 

「十字が怖いからね」

 

 

「十字?」

 

 

「そう、病院には赤い十字架が多いからね。苦手なんだ。十字架」

 

 

「あぁ、あの迷信はガチなんですね」

 

 

「うん、ガチだともガチ」

 

 

なんとまぁ現代風な。

 

 

 

 

「そういえばマント預かっているので、今度取りに来てくださいよ」

 

 

「ん? ありがとう、では近々そうさせてもらうよ」

 

 

「ええ...」

 

 

言い終えた後の彼は同性とは思えないほど色っぽい顔をしていた。

 

 

後から聞いた話だが、ニンニクは別に嫌いじゃないとのこと。

 

 

 

なんともよくわからない性質のようだ。

 

 

 

てか昼に活動できんのか?

 

 

 

無理を言ったのは俺だけど。まさか本当に3日で退院できるとは思わなかったぜ...

 

 

 

あれ、猫にもらった紙がねぇ。病院に置いてきたか?

 

 

20 お使い少女

 

 

仕事の遅い人間がやってしまっていることベスト3。

 

1.フィードバックをもらわない

 

できないことを認めないからくる心情。全部自分で完結させようとする。

 

 

2.計画を立てない

 

大まかでいいから決める。夏休みの宿題感覚でお客様に出すものを完成させようとするんじゃない。こちらはもう責任と名前を背負っている。

 

 

3.仮説を立てない

 

なんでやっているのか、いつまでに行うものなのか、誰のためにやっているのか、どうしたら喜ぶのかの、予想すらしない。特になんでやっているのか。

 

これをするとしないではやる気が全然違う。宝を探しにいくのに地図を持っていくと思うが、仮説を立てないというのは地図を持っていかず宝探しをするのと同意義である。

 

=======

 

 

俺がコンビニで立ち読みをしていると、自動ドアが開いて、幼稚園児ぐらいの女の子がひとりではいってきた。


女の子は一人で買い物に来たらしく、 極度の緊張からか、ほほを赤く染め真剣なまなざしで店員に 「けえきください」と声を発した。


いかにもバイトといった感じの女子高生らしき店員は、 「一人で来たの?ママは?」と問いかけた。


すると、女の子は、 どもりながら必死で、一人で来たこと、今日が母親の誕生日なので 驚かせるために内緒で自分の小遣いでケーキを買いに来た、 という趣旨のことを長い時間かけて何とか話し終えた。

 

(今日はこの漫画の作者休みなのか)

 

店員は戸惑いながら 「そうー、偉いねー。どんなケーキがいいの?」 と一応注文をとった。

 


「あのねー、いちごがのってるの!」

 


どう見ても女の子が大金を持っているようには見えない。 手ぶらだ。財布が入るような大きなポケットもついてない。


まず間違いなく、小銭を直にポケットに入れているだけだろう。


俺は盗み見しながら事態を見守っていた。その時には漫画のことなどどうでもよかった。

 

店員も女の子がお金をたいして持っていないことに気づいたらしく、 イチゴが乗っているものの中で一番安いショートケーキを示し、 「これがイチゴが乗ってるやつの中で一番安くて380円なの。 お金は足りるかな?」と問いかけた。

 

すると、女の子の緊張は最高潮に達したようで、 ポケットの中から必死で小銭を取り出して数え始めた。 俺は心の中で呟いた。

 

どうか足りてくれ...

 
「100えんがふたつと・・・50えんと・・・10えんがいち、にい、さん・・・」

俺は心の中で叫んだ。


ああっ!ダメだ!280円しかないっ!!!


店員は申し訳なさそうに、お金が足りないからケーキは買えないという趣旨の説明を女の子にした。

 

それはそうだろう。店員はどう見ても単なるバイトだ。 勝手に値引いたりしたら雇い主に怒られるだろうし、 女子高生にこの非常事態を『大岡越前』か『先輩』ばりのお裁きで丸く納めるほどの人生経験はなくて当然だ。

 

かといって、赤の他人の俺が女の子のケーキの金を出してやるのも不自然だ。女の子が自分の金で買ってこそ意味があるのだから。

 

女の子には買えないことが伝わったらしく、 泣きそうなのを必死で堪えながら、 というより、声こそ出してないが、ほとんど泣いていて、小銭を握ったままの手で目をこすりながら出て行こうとした。


すると、ろくに前を見てないものだから、 自動ドアのマットにつまづいて転んだ。 その拍子に握っていた小銭が派手な音を立てて店内を転がった。

 

「あぁーあ」

 

他に誰もいないので俺は少女に駆け寄る。

 

「大丈夫かよ」

 

「うぅ、あぁ」

 

俺は女の子が小銭を拾うのを手伝ってあげた。
小銭をすっかり集め終わった後で、女の子にこう話しかけた。


「ちゃんと全部あるかな?数えてごらん」


女の子は

 

「100えん、200えん、300えん・・・?あれ!380えん、あるーっ!」

 

「きっと最初に数え間違えてたんだね。ほら、これでケーキが買えるよ」


と言うと女の子は嬉しそうに、


「うん!ありがとう!」

 

としっかりお礼を言い、 イチゴショートを一つ買っていた。

 

俺はそれを見届けてから、自分も同じものが食べたくなったのでケーキを買おうとして気づく。

 

 

レジにお金を置き、

 

 

「お客様...申し訳ございません...」

 

「はい?」

 

「いちごショートは売り切れでございます...」

 

 

 

 

 

 

 

2ちゃん抜粋

 

19 看護師・ユカリ

 

 

 

 

それが全力?

 

今ある自分はあくまでこの環境下での自分でしかない。他社に飛ばされたら?トークが言える。契が取れる。だから何?お前が追っているのは、今を乗り切るためだけのスキルなのか。

 

==========

 

この丘の病院は広く金もかかっているから、病人や患者に対する待遇が神がかっている。

 

おまけに産業クラスターと包括ケアのいいとこをぶっこぬいて二倍にしたような厚遇っぷりで、滅茶滅茶力加えられている。

 

 

大型ショッピングモールから医学部、小型のアミューズメントまで選り取り見取りの高待遇。


軽い工場よりもでかい

ちょっとした横丁だよ

 

 

もちろん、病院とはしっかり敷地は区切られているけどね。

 

「いってなぁもう」

 

 

策を越えようとしてシンプルに右肩が痛い。

 

昨日は不審者に殺されかけられた後、結局警察に対応してもらって事なきを得た。右肩から出血しているということで救急車を呼んでもらい、昨日この病院へ搬送され治療してもらった。

 

「腹の痛みは気のせいだったか...?」

 

午前中は警察の事情聴取とコンビニの店長に休みの連絡をした後に、ミノルに雑談連絡。そしてアキラが訪ねてきた。

 

『クカカカ、災難だったな。報酬を受け取りに来たぞ』

 

『おい、俺の心配無しかよ。それよりキララさんの御祓全然効いていないんだけど』

 

 

『クカカカ、キララさんはいつだって異常だ。それより【シリウス・リリカ】がもうそろそろ壊れそうだ、気にかけてやれ。殺人鬼はまだ捕まってないらしいな、気をつけるといい』

 

 

そう言って災厄の布石を打っていくアキラ。

 

 

あいつまじでどうやって情報を仕入れたのか、病室の番号教えていないぞ...

 

なんて肩の痛みから逃れるために回想シーンに浸っていたところ、声がかかる。

 

 

 

「どーこいくの、ボオヤ?」むぎゅぅぅぅ

 

 

隠れて脱け出して、敷地外、後一歩のところで捕まえられる。

 

 

『鬼ごっこは終わりか?』

 

 

うわっデカ...じゃない

 

 

「離してください」

 

 

 

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首に手を回される

 

「ぼぉやが逃げるのやめたらね」

 

「ふぅ...やめます」


離してもらった瞬間に足壊してでも逃げよ

 


「素直に聞いてくれそうもないのだけど」

 

 

なんでわかるんだ、ぁ

 


「んん、もし逃げたらぁ...じゃぁおばさんとキスね?」

 

「おばっ...いや全然あり、なんでもないです」

 

「んぅ...さ、行くわよぉ」

 

「ちょ、はなしって!」

 

「当ててるのよ〜」

 

「いやそんなこと聞いてねぇ」

 

 

今はというと、美人のお姉さんと鬼ごっこ中で、たった今俺が捕まった。逃げ惑う理由はなんとなく恥ずかしいから、というのと他に理由があるから。

 


お姉さんは近くの建物で車椅子を借りてき、

無理やり座らされる俺。

 


頭には柔らかい双丘がのしかかる。

 


「普通に重いです」

 

「ボウヤ流石に怒るわよ?」


耳元に口を持ってこられた

かなりの気迫と緊張感


「ごめんなさい」

 

「...いいわよ」


そう言って当たり前のようにまた

俺の頭におっぱいを乗せてくる姉さん


「姉さん当たってます」

 

「あぁぁん、おねぇさんだなんてぇ」


さらに前かがみになり

後ろから抱きついてくる姿勢になる

 

 

その姿勢は俺の右肩をしっかり想っている。

 


すごいのはそんな中でも車椅子は安定していると言うことだ。


「いや...あの、離れて...」

 

「離すと逃げるでしょう?」

 

「もう逃げません」

 

「本当ぅ? 嘘ね」

 

「逃すのが怖いのですか?」


たっぷりの間をとって


怖いわ...一応罰則が厳しいって言うのもあるけど、

 

ボウヤがそんな状態で出て行って何をしてどうなるのか。怖いわ


途端に安否が気になるといった旨を伝えられる。


何も言い返せなくなる



姉さんは車椅子を止めると、俺の前へとやってくる。

 



 

「三日もすれば退院できるから、それまで我慢してくれないかしら?」

 

「ええ、」

 

「もう抜け出さない?」

 

「確証はできぬ」

 

「やっぱり嫌なのね」

 

「いやというか苦手」

 

「じゃぁ...『得意』にさせてあげようか?」

 

「どいうこと?」

 

「おばさんとイイことしましょうか?」

 

「はぁ...またそうやってふざける」

 

「真面目よ、っちゅ」

 

「わぁああ! おい、デコに口つけんなや」

 

どんな看護師だよ。車椅子がひっくり返りそうになるところで支えられる。

 

 

 

 

「どこか...行きたいところでもあるの?」

 

「いや、別に...」

 

「なら、会いたい人がいるとか?」

 

「いや、違うナス」

 

「なら、三日。一緒にいましょう?」

 

「...その三日があるのならば、家にいたい」

 

「はぁ...頑固ねぇ」

 

 

中庭の散歩道をゆっくりと歩いていく。

 

 

今日も景色が綺麗だと。

 

 

 

三日後にネット友人が言っていたバイトでもしようかな、どうせ体使う系じゃないでしょ。

 

 

 

夕方はテルオが面会しに来てくれた。

 

『元気かぁ!』

 

最近のこいつの好感度バク上がり感が半端ない。

 

「エリオ元気だぜ!」

 

「誰?」

 

「誰って、ヒデェな。お前が紹介してくれた小型のやつだよ」

 

 

ヤベェ、忘れてた

 

 

普通にごめんなさい

 

 

「その肩じゃビーチバレーできねぇな」

 

「いつから俺はビーチバレーやる予定だったんだ?」

 

「明日」

 

「まぁ...遊ぶ約束はしていたからな」

 

「てかさ」

 

「な、なに。真面目な顔して」

 

「ここの看護師かわいすぎじゃね?」

 

「まぁ...それはまぁ確かにだけど」

 

 

真面目な話かと思ったらそれなんかい...

 

 

18殺人鬼・霧屋敷

 

 

 

 

確かにここ最近の自分には奇妙な出会いが多かった。振り替えると確かにそれはプラスのことが多かった。だが、奇妙というのはマイナスでないとは限らない。自分にとって都合の良いことばかり起こるなんて誰が言ったのか。都合が良すぎた。

 

 

死のうとか、死ねとか、殺すとか。そういった言葉がこんなに重いことだとは思わない。

 

なぜなら人は幸せだからである。

 

でもそれは、あくまで各々の尺度。現実の幸せというものは意外にも低かったりする。

 

 

 

 

遠くから足音が聞こえてくる


まるで必要以上に俺を狙っているかのように


冗談でしょ?

なんで俺が


そう、逃げるために、顔を上げた瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 


「よぉ? 鬼ごっこはもう終わりかい?」


思いっきり俺は鉄のようなもので右肩を殴られる。


脳が揺れて

視界が霞む


いってぇっぁあ

 

俺は右手首を向けることで相手への牽制を産む


バチィィィといって手からひし形が発生する


昨日みたいにしのごの言っとる場合じゃないのは確かだ


一度人間相手に銃を向ける経験をしておいてよかった

 

そういう意味では昨日のお姉さん事件もあながち無駄ではなかった


実際はそんな経験何の役にも立たないのだが


今までうまくいきすぎていた

 

有名な人が言うように

 

世界は残酷で

 

世界はいつだって俺にご都合主義を許してくれないことをすっかり忘れていた

 

今までが幸運で

 

今まであった幸せに傲慢にも溺れていたことを忘れていた

 

世界はデフォルトで不条理

 

いつからそんなことを忘れるようになったのか俺は

 

きっと素敵な友達に出会えたから

 

高校の時から運がやたら良かったから

 

今までが幸せだったから

 

怪我したことなかったから

 

ずっと上手くいってつまらなかったから


いやそれは言い訳ではなく

 

一つの誇りとして心の中に留めておこう

 

じゃあ素敵な巫女さんとお話できたから

 

それもこの不幸には釣り合わない幸福な気がする

 

 

なら

 


相手は何のことはない

俺の銃口には目も向けず

一直線に俺の首を狙って走ってきた

 

 

黒フードを被った少年オア青年

 


はなっから俺が打つことなんて想定していなかったのだ

 

俺が打てないことなんて最初から相手はわかっていたんだ


何が言いたいかというとチキった


っていうかなんでこれが銃であると知っている?

 

「おらぁぁあ!」

「ぐぅぅっぁぁぁ!!」

「殺ってみろや」

 

 

押し倒されて


胸元を引っ張られる

挑発されているのだ


しかし俺は、そんな言葉にのることはできなかった

 

 

そして彼のナイフは俺の腹へと伸びていき、

 

腹の中が熱くなる

 

「ぐぁぐがかぁあああ」

 

感覚でわかるこれは刺さった、

 

 

もう死んだかと思ったそのとき。

 

 

大量の風が俺の体から吹き荒れる。そして空中に謎の文字文字が浮かび上がっていく。

 

 

『ガキィィン』

 

 

「なんだこいつ...腹にナイフが通らねぇ」

 

「な...」

 

「なんだ?」

 

 

数々舞っていた文字がフード野郎にまとわりつき始める

 

「っち、テメェ何しやがる」

 

俺は何もしていない

 

文字は黒字から赤文字になり彼に張り付く、そして彼の動きも止まる

 

「.....」

 

「い、今のうちにッ!」

 

「おい、待ちやがれ」

 

 

後ろ髪引かれることなく俺は現場から逃げる

 

右肩に激痛が走るも、今は気にしている場合じゃない。

 

「っはぁっはぁっはぁ!」

 

 

逃げろ、次は殺される

 

 

そして俺は近くの交番に駆け込んだのであった。

 

あいつだって人間だと思うので、警察にまで乗り込んでこないだろう...

 

 

 

俺はこの時、久しぶりに生きている実感を思い出したのであった。

 

 

 

 

あの浮いて拘束した文字はいったいなんだったのだろうか?

 

 

17電車令嬢Ⅱ

 

 

 

 

 

帰るという趣旨を伝えると一応鳥居のところまで見送ってきてくれるキララ

彼女にも巫女のプライドはまだ残っているらしい……


また睨まれた


なんなら麓まで送ってくれないかなぁとか思いつつその邪念を霧散させる

それは流石にカッコわるすぎる


「ださっ」


ださとか言われた傷つく


「お化けが怖いならこのお札買ってく?」と言われ、俺が心の中でどうせ高いんだろうふざけんなと思ったところ「安いわよ、一万」と言われたのでとりあえず心の中で唾吐いておいた「誰が買うかばーか」


彼女をチラリとみて俺は背を向ける

掃除も意外と嫌いじゃなかったりする


もっと言えばここの掃除は楽しかった

……いや、それは嘘

 

「んじゃ」

 

「あぁ、最後にこれだけ施しておくわ」

 

「なに? うわぁ!」

 

彼女は俺の腹に手を忍ばせてお腹を撫でていく。

 

「それじゃあね」

 

その後何事もなかったのように離れる。

 

どういうこと?

 

俺は背後を振り返る

 

巫女さんはすでにそこにはいなかった


「まぁいいか」


俺はこの時このことをあんまり気にしていなかったけど、もっと突っ込んでもよかったと思う

 

 

 


ともあれ、あの札買っておけばよかったと後悔

足元見やがってあのアマ...


薄暗くなっていくにつれて恐怖心が増長してくる

 

一人で山道を下りるのは何とも言えない心細さがある

 

光を失った木の影が全部人の影に見える


色々言いたいところであるが


俺は全力で木々の間を走って駅に向かう

アキラによれば、これを逃すともう三十分くらい駅でまたなければいけないらしい

決して夜が怖いからとかではない

時間が無いから走っているだけである


木の葉が顔にみえたりとかはしない絶対

 


ヘトヘトになったお陰で無事に薬参路駅に着くことができた


安心したのもつかの間


「あー怖かった」

「おや珍しいね」


油断したところで誰かに話かけられる


ひょえええええええ!!ってなった

振り返るとなんだ、ただのババァだった


脅かすなよ


今度は美女ではない笑


「なんですかもうっ......」

「いやのう、こんな駅に人が来るもんじゃからついついのぉ」

「えぇ? なんでよ」

「そりゃお前さん、ここがそういう駅じゃからじゃろう」


ババァの目が険しく光る

心臓が飛び跳ねる


「ばぁちゃんやめよ! 怖い話でしょ?やめよ!」


初対面でなんなんだこの人

 

因果応報もいいとこだ


「なんじゃバレたかい......」


そう言ってふぉっふぉっふぉと笑うおばあちゃん

 

悪い人ではないのは確かなんだろうけど


「はぁー?」

「なぁに、焦って改札乗るもんじゃから少し意地悪したくなっただけじゃわい」


どうやらからかわれただけか

焦っていたから周りが見えなくなっていたのかもしれない


「あぁ、ごめんおばあちゃん、なんか迷惑かけた?」

「なーに、ただ儂がとうろうとした改札を横取りされただけじゃわい」

「うわーごめんなさい」


再び笑うおばあちゃん

 

この田舎駅には改札は1つしかない


「素直に謝ってくれたらそれでいいわい」


飴ちゃんもらうか? といって一つもらう


そこでちょうど電車が来たので俺は何も考えずに乗ろうとする


「お前さん、その電車はやめておいた方がいい」

「なにっ? また怖いはなし?」


意外と根に持たれている!?

とか思いながらあげた足を下げる俺


「回送電車じゃ」


冗談抜きで回送乗ると返ってこれんぞと言われる


「あ、ありがとうございます」


結局ちゃんとした電車が来たのは5分後だった

 

*********

 

車内にはおばあちゃんと俺の二人しかいなくて怖かったりする


「暇じゃのう」

「いえ、全然」

「怖い話でもするかのぉ?」

「致しません」


ババァは笑う

どうやら本当に暇みたいで、しきりに怖い話をしようとしてはこちらの反応を見ては笑っている

 

暇かよ


「ふぉふぉ、怖い話の何が怖いのか、別に自分で体験したわけでもあるまいし」

「そうじゃなくても怖いんですぅ」


また嬉しそうに笑う


「そういえばお前さんはなんであの駅におったんじゃ?」


乗客が二、三人新しく入ってくる

顔がなかったりしない

ちゃんとある


俺はその姿にホッとする

ガン見していたら女性に睨まれた

おぉすんません


「えぇ? なんでって、ちょっと用事でね」

「お前さん、自慢じゃがないがあの駅は本当にいい噂がなくてな...」

「もうやめてよー」

「いやマジなんじゃて」


ババァが「マジ」とか使うな笑う


「実はナメ地蔵という地蔵があってじゃなぁ」

「もういいってばぁちゃん」


ふぉふぉふぉと笑う


『ドアがしまります――』


車内アナウンスと共にドアが閉まる

次第に列車は歩みをすすめて動き出す


「お前さん薬持っとらんか?」

「え? なんの薬?」


俺は心配しながらばあちゃんの方を見る


「実は薬山路駅から乗った乗客が薬を持っているとあの世に連れて行かれるんじゃ……」


結構な剣幕で行ってくるばあちゃん

その勢いに俺は奇怪なものを感じつつ


「もしかしてばぁちゃん持ってないよね?」

「それで...! なんじゃ、こっからが面白くなるところなのに」


このババァせっかく心配してやったのにぃ


俺はポケットにへんな薬とか入ってないか確認しながら

 

 

それを見たばあちゃんもカバンを確認し始める


「あ」


ばあちゃんがつぶやく


「今度はなに?」

「わし薬もっとったわい!」


そう言ってまたふぉっふぉっふぉと笑い始める

いやもう、どうでもいい


「どうしよう儂自分で作り話しておいて自分で怖くなって来たんじゃが」

「バカか」


始末に負えないなオイ

いや本当に知らんし


「いかぬ、本当に怖くなってきた、おい小僧、なんかハッピーでバイブスアゲアゲな話をせぬか」


肘でコツかれる


「んな無茶言うなよ」

「そういえば本当になんであの駅を使っとるんじゃ......なにやら急いどったようじゃし」

「えぇ? まぁ、神社行ってたんだよ」


それでよかったのかばあちゃんはまたふぉっふぉっふぉと笑い始める


いやまだ面白いこと言ってないから

話だったらなんでも笑うんかい


「お前さん下手くそじゃのう、怖い話をするのならもっと凄みを出さんとぉ」

「誰が怖い話の話なんかするんじゃ」

「だってお前さん、あの地域の神社と言ったら『あそこ』しかないじゃろう」

「ええ?」

「言わせるでない、言ったらまた怖くなってきたじゃないか」


「ちょっと、その話しないでよー」

 

と向かいの女性が牽制をかける


え?え?

ちょっと待って、俺も怖くなってきたじゃない

 

 

 

結論、電車内では何事もなかった。そう、何も。

 

 

 

 

夜道を歩いてみればわかると思うけどあれって結構怖いんだよね


特に街灯のないちょっと人気の少ないようなところなら特に


先のキララさんの話を思いかえす

『あなたいろんなもん引き連れているのね』


俺は今回駅前商店街を通らずに敢えて人通りの少ない、駐車場ばっかがある反対側の通りを歩いているけど


「失敗だったな...」


アキラしかりキララさんしかり

怖い話を聞いた後は

一層ビクビクしてしまう


正確には怖い話ではなく霊的な話であるが


どっちにしたって同じこと

 


不意に足音が後ろから聞こえる


「いやいや、足音なら大丈夫...相手は人間だから」


俺は安心しつつ後ろを振り返る


だ・れ・も・い・な・い


うわぁぁ! なんて...そそそそう簡単に俺が驚くとでも思ったのか


単に曲がり角を曲がっただけだろうが

だから足音がなくなったんだ


騙されないぞ


誰とも知らず一人言い訳をする俺


もう一度歩き始める...


コツ、コツコツ


やっぱりだれか後ろの方にいる!


最後、最後だけだと思い俺は後ろを振り返る


だれもいない! 


「わあああさあああああ!!!」


俺は全力で走りはじめる。

いなかった!

本当にだれもいなかったのだ!

 

しばらく走って俺は息が切れる...

あともうちょっとで俺のよく知っている道に出る、そこから家まではもうすぐだ


それだけでホッとするが

今はまだ安心できない


遠くから足音が聞こえてくる


まるで必要以上に俺を狙っているかのように


冗談でしょ?

なんで俺が


そう、逃げるために、顔を上げた瞬間だった

 

俺はこの日、盛大に後悔することになるのであった。

16天羽綺羅々

 

丈量合切人同社。神社がオススメだ

 

 

北の天羽神社と調べろ。

 

 

 

俺は丁度閉まろうとした電車のドアをスレスレに出て今に至る。

 

 

動悸がする

 

冷や汗が止まらない

 

俺は走り抜ける

 

『クカカカ、この愚鈍の守護を持っていけ』

 

『なんだこれ、どんぐりじゃねぇか』

 

『クカカカ、これは大切なものだ。これがあれば天羽に入れる。前回と同様ならな』

 

『なんだそれ』

 

『ただし、これを持つことで霊に好かれる、せいぜい怪しい存在には気をつけることだ』

 

 

風を切って世界を置き去りにする。

 

驚かせて置いてきた女性はまだ電車の中にいるはずだ。

 

 

改札を電子マネーで通り過ぎた俺は全力で走って今、白神へと向かっている。

 

「悪いことしたなぁ」

 

罪悪感を湧かせるのは先ほどのトップお姉さん。霊的な何かだと踏んで俺は彼女を驚かせたは良いものの、その後人間味のある驚愕に俺もビックリして結局逃げてきてしまった。

 

要は『霊的な存在か』『人間か』を判断したかったので鎌をかけたのだが、結果が人間であったので申し訳ない気持ちが勝り、逃げてきたことになる。

 

だってあんな話で怖がるとは思わなかったし...

 

と言いつつ俺の右肩は震えているのだがね。ブルブル。

 

 

 

アキラが霊的な存在とか幽霊とか驚かすから...と彼のせいにしておく。

 

 

 

はぁ、はぁ...

 

 

前回と同様に神社の麓までくる。ここから先はただの廃墟であるのだが...

 

この謎の団栗さえあれば

 

 

先ほどまでなにもなかった茂みから石畳の階段が現れる。

 

いつ見ても奇妙

 

そこを15分ほどかけて登ると赤い鳥居が見えてくる。

 

 

「神社にきたのならちゃんと賽銭の一つでも投じていきなさいよマナーでしょう」

 

真夜中だと言うのに彼女は清く出迎えてくれる。

 

 

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「お久しぶりです」

 

「なにその言葉遣い、キモいんだけど」

 

「...御祓してもらっても良いですか?」

 

「...いいけどって、驚いた、あなた……いろんな要素を持ち過ぎよ」


例えるならば中華とフランスと世界中のバイキングよと例える彼女

 

「どこから取り除けばいいのよ...」


ちょっと何言ってんのかわからない


まぁいいわ、できるとこまではやってみるから

後は知らないわ、勝手になさい


そういって一旦社殿にもどっていき、布みたいなのを持って戻ってくる巫女さん

 


ご祈祷---------

 

 

「これは文布(あやぬの)と言ってあなたに憑いている悪いものを取る際に助けてくれるものよ。別名、倭文(しず)とも言うわ」

 

「へー」

 

「といっても本来の用途とは違うんだけどね。今回は肩にかけるだけ」

 

「違うんかい」

 

 

俺は土の上に座らされてあぐらをかく。

 

 


肩ポン

 

 

え?終わり

なわけないよな


これはあれだにきっと。立ちあがったらもっ回最初っからね!っていうイジワルなパターンだ


……


……


……


あなた...これ...取っちゃダメなものなのね...

 

「なんか言った?」

 

「......」


「へ? なぁおい、もういいかよ」


「...はぁー? とっくにいいわよー、早く立ち上がりなさい」

 

良いなら良いと言ってくれ

 

「さぁ、境内のお掃除、手伝ってもらうわよ」


俺は一旦考えてから


「えええ! 見返りを求めんのかよ!」

「そうよ? 神社だってビジネスだもの、慈善事業じゃないのよ」

「そりゃそうかもだけど」

「なんなら相場価格の十万円の方で手を打ちましょうか?」


本来は十万もかかるのか


「詐欺じゃん」

「はいはい、鷺(さぎ)でも鴇(とき)でもどちらでもいいわ。払えないならちゃっちゃとお掃除して下さいな」


半ば強引に箒を渡される

それも、あの魔女とかが使う竹でできたでっけぇやつ


「強制かよ!」

「いいじゃないの、あなたの不幸は払われましたー、っはい。掃除ぐらい安いもんよ」


唖然とする俺に、そして厄は祓ったんだからお金か境内どっちかはらっていきなさいと上手いことを言ってくる暴君巫女

 

「こんな辺鄙なところの掃除か」


「次言ったら私の手でぶっ殺す」

 

うはー怖い怖い

おまけに地耳かよ?


何も言っていないのに睨まれた

 

巫女が殺すとか言うなよな

 

 

==========

 

「お団子食べる?」

 

「急に優しいやん」

 

「いらないならいいわ」

 

「ください」

 

お裾分けのままに、賽銭箱の前に座る彼女からまっ白い団子を受け取る。

 

意外とみたらしとかより白玉系の団子の方が好き。

 

「隣、座らないの?」

 

「あぁあ、座る」

 

賽銭箱の前ってバチ当たらんのかな。

 

「濃い食べ物よりも、素朴な食べ物の方が好きなのよね」

 

「それめっちゃ...わかる」

 

団子を一口食べる。始め無味に近いが、後から奥深い甘みがゆっくりと口の中に広がっていく。

 

「美味しい」

 

「ええ。お茶も飲むかしら」

 

茶皿に乗った湯気湧き立つお茶をどこからか取り出すキララさん。お茶はほんのりとした優しい緑。

 

「何か企んでるんですか?」

 

「いらないなら私が飲むわ」

 

「いただきます」

 


掃除が終わったのはすっかり日が暮れているところだった


俺はちょっと張り切りすぎたと後悔する

あちゃー、これ駅に着いたらすっかり暗いぞ


「やっちまったなぁ」

「何がやっちまったなの?」


まさかこの人にお化けが怖いなんて言えるか


「いや、」

「お化け怖いの?」


なぜその話題がでてくる


「...」

「なんでわかったかって?」

「お、おい! 俺何も言っていないだろう!」

「わかるわよ」

「っへ?」

「だって私ーー


ーー人の心が読めるもの」

 

運動後に今日一番の風邪が吹く

汗かいた頬が撫でられてきもちぃ

 

「あんたみたいな人に本音を言えない人間には天敵ね」

 

背中に冷や汗再び

 

 

「......」

 


狐につままれた気分であった

 

 

 

俺今まで失礼なこと考えていなかったよね?