紅蓮のゆうび’s Diary

役に立つ、読みやすい、ように努めるただの日記。

10 吸血鬼・ヴァリス

 

 

 

ある日の暮方の事である。

 

俺は寝っ転がりながら無駄な時間を過ごす。

 

大学からアパートまでは徒歩15分少々である

余談ではあるけど俺は今2年であるが就職活動については全くといっていいほど何も考えていない。知り合いの生神アキラではないがそれが大学生というものである、何も考えないのだ。

 

これが現状である。はぁ。

 

そんなことを考えているとアパートの窓がノックされた。

 

誰だぇ?

 

「お初にお目にかかります、私ヴァリスと申します」

 

宝塚系の中性的な顔立ちをしたイケメン

又はその美女は優雅に一礼するとそのまま逆様に宙を浮き続けた

 

「え...あなたどうして...」

 

というかどうやって空飛んでいるんだ

 

「結界が貼ってあって入れないのです...」

 

結界ってなんだ

あとその結界とやらが張ってなかったら勝手に入るつもりだったのかこの人

 

「いや、その...」

 

今日は濃いなぁ

ドッキリでもやられてんのか俺

 

来客者は今風で言う吸血鬼のイメージをした存在であった

 

「えっと・・・・・・なんであなたはここへ?」

「・・・・・・聞きたいですか?」

 

相手方の目が細くなった瞬間

部屋の温度が急激に下がったような錯覚に見舞われる

イメージ通りの存在だ、ハロウィンはまだ先だというのに

いや、もうすぐか?

 

「いえやっぱいいです」

「アナタを先ほど上空から見掛けましてね、とても素敵な方だと・・・・・・そう思ったのですよ」

 

勝手に話し始めたぞ

 

「・・・・・・どうしたいというのです」

 

そんな怖い目で見つめられても何もないよ

かといって逸らしたら絶対死にそう多分

あぁいやだいやだ

あと、上空からってなんなの

 

「部屋に入ったのを見計らって少しだけお邪魔しようと計っていたのですがいやはや・・・・・・あなたの方が何枚も上手だったということだ」

 

オーバーリアクションでその着ているかっこいいコートを弾くヴぁーなんとかさん(忘れた)

 

「自分は......特に何かした記憶は...あ」

 

「おや、心当たりがあるようだね。まぁいい、私を中に入れてくれないかな?」

 

この人今の流れでよくしゃぁしゃぁと入っていいか? なんて聞けたね・・・・・・その風体で入れると誰が思うか

 

「ごめんなさい嫌です」

 

気が付けば寒さも霧散していた

 

「うぅーん、じゃぁ強行に出てもいいかな? それは困るだろう?」

 

いや強行突破でこれるんかい

しかしだからといって俺は入れる気もないし、解除方法も剥がすのか祈祷するのかも分からないしどうしようもない

 

「えぇ、でも自分がこの結界?かなにかを張ったわけじゃないのであなたを入れる方法がわからないのです」

 

ほう・・・・・・と彼女ないし彼は呟き目を再び細める

少し寒さを感じたが先ほどの比ではない

というか本当に女優みたいな顔立ちだな

 

「ではこちらへ来てもらってもいいですか」

「あ、はいーー」

 

といいかけて俺は歩みを止める

 

「ん? どうしたんだい」

 

いやいやいや

一瞬でも従おうとした俺はいったいどうするつもりだったんだ

 

「絶対食べるでしょ?」

「んーーばれている?」

 

一応嘘であって欲しかったのにどうやらホントであったようだ

ボケをしたのにぼけ返されたような気分だけが残る

 

「えぇ? 本当に食べられるんですか!」

「いやいや、もちろんだとも」

 

当然のように言われても困る・・・・・・

いや困るし

 

「じゃあ行くわけないじゃないですか!」

「ええ! そんなぁ」

 

ちょっと面白い会話になってきた

少なくともこの言葉の返しから相手が悪い人ではない気がしてきた

もちろん食べさせる気はさらさらないけどぅ

 

「え、マジで嫌ですよ死にたくないです」

 

その拒絶にコートの人は何を思ったのか笑い始める

 

「――ぇぇ? ふふ、なにも命までは奪ったりしないよ」

 

その大げさなリアクションが逆に信用できない

 

「それを・・・・・・信じれるとでも?」

「うーーん、困ったな、ただ血が欲しいだけだよ」

 

うわ、ガチなやつじゃん

 

「ど、どうやって得るつもりで?」

「こう・・・・・・そうだね、恐がっているようだからなるべく優しく、こうプスッと」

 

その最後のプスッが嫌なんですがそれは

あとそれが真実であるという保証もないし

 

「い、いやです」

「ふぅむ、嫌かい?」

 

心底困ったような顔をする

というかそろそろベランダで逆さまになるのやめてもらいたい近所の人に見られたらどうするんだよ、という趣旨を丁寧に伝えてみる

 

「あぁ、じゃぁこうしよう、君が血をくれたらここを去るから」

 

なにがじゃぁこうしようだよ、さも名案のようにいいやがって

一応逆様から重力に正しい方向の立になってくれる相手方

 

「いやですって・・・・・・」

 

「うううん・・・わかった!」

 

何がだよ

 

「優しくするから!」

 

そう言って女の子だったら一発で落ちそうな笑顔をこっちにぶっ放してくる彼ないし彼女

 

「そうじゃないよ!」

 

「えぇ、じゃぁなんなのぉ?」

 

本当にわからないと言った表情をする相手方、いや本当に分からないのだろう実際

 

「それが本当かもどうかもこっちには分からないのに・・・・・・」

 

「ああ、そうか、信用してもらえてないわけか」

 

と言うか僕とあなたの間で信用が生まれる要素が一個でもあったかね

 

「ええ、ですから――」

 

びっくりした

急に脱ぎ出すんだもん

 

「えぇ、ちょっと待って待って待って待って」

 

なんで脱ぎ始めたこの人

コートが一階へと消えて地面に落ちる音がした

ワイシャツだけになる彼

 

恐らく胸が無いからここでやっと性別が分かる

多分だけど

 

「人と信頼を作るには交配(交尾)が一番いいと聞いた」

 

誰だそんなこと言ったの

 

あとあなた多分男だよね? きついんじゃが・・・・・・

 

「そんな信用の作り方聞いたこともありませんよ」 

 

「え? そうなのかい?」

 

「それに僕あなたとそんな関係になりたくないですし」

 

そういうといよいよ悲しそうな顔になる彼

 

「私が女だったらよかったのかい」

 

やっぱり雄か。

 

本当に泣き始める彼

 

ちょ、ごめんなさいって

 

ていうかそこじゃねーし

 

「君の血を・・・・・・飲めないなんて…」

 

「な、泣かないでくださいよ...」

 

俺はこの空気を何とかするために話題を変える

 

「ちなみに先ほど強行突破と言っていましたが、ちなみにどういった方法なのですか」

 

「ぐすっ、横がだめなら縦から、天井突き破るだけだよ」

 

とても嘘を言っているように思えない

この人ならきっとやりかねない、実際空飛べているわけだし。

 

しかしてその方法を未だ取っていないのであればやっぱりこの人はいい人なのではないか?

 

「ねぇ、あんたのお名前、なんでしたっけ?」

 

「へ? ヴァリスだけども・・・・・・」

 

「そっかヴァリスさんね」

 

意図がわからないらしい

俺もよくわからないけど

無意識に彼と交流や好感を上げようとしているのかもしれない

 

彼を信じれるだけのパーツが欲しい。悪い人ではなさそうだから、信じたいというきもちもあるが

 

「えっと」

 

ヴァリスさんは・・・・・・やっぱり生の血がいいの?」

 

悲痛な顔から少しだけ明るさを取り戻す彼

 

「え? そ、それはそうだけれども・・・・・・」

 

「そっか・・・・・・もう一回外へ出た血を食すのはやっぱり抵抗あり?」

 

「? そうだね・・・・・・でもそれでも私は嬉しいよ」

 

「そっか、じゃぁコップに俺の血を垂らすから・・・・・・っていうのでどう?」

 

外へ出て彼に吸ってもらうのもいいけど

それに及ぶにはまだ勇気が出ない

 

「ほんとうかい?!」

 

「ごめんあんまり大きな声出されるとご近所に響くからやめてくれます、か?」

 

「あぁごめんごめん、でも本当なんだろうね? 嘘だったらすごい傷つくよ」

 

「大丈夫なら、それでいってみます。ちょっと待ってください」

 

俺はとりあえず剃刀を探す、ない

だから台所から包丁を取ってくるけどめちゃめちゃ抵抗ある正直

 

擦り傷とかだったらいつのまにかできているんだけどなぁ意識してやろうとすると本当に怖い。ていうか包丁のビジュアルって本当怖いよねこれ

 

引き出しカミソリを探してみるけどやっぱりない

 

「刃物はやめといたほうがいい、跡になるからね、針とかはないのかい?」

 

すんごい的確なアドバイスがベランダから飛んでくる

そりゃそうか血のスペシャリストみたいなもんだからな、いや違うか

 

確かに跡になるのは嫌だけど。そんな大げさなくらいに引き裂くわけじゃないだろう

 

俺は裁縫道具から針を一本取り出す、これなら俺にでもできそうだ

 

「うっし」

 

俺は一本針を凝視しながらゆっくりとこれを指に刺すイメージトレーニングをしていく

 

昨日殴られたかさぶたがうずく。

 

「水をさしてごめん、人間の体は弱いと聞く針を刺すならよく熱するといい」

 

俺は心の中でずっこける 

 

あ、 ガスコンロか・・・・・・あ、ウチ、アイエイチだった

ライターライター・・・・・・ガスバーナーならあった

 

「それとワインとかお酒があるといいね、お酒は蒸留酒じゃないほうがいい。熱したあとはお酒を手にかけて消毒をしっかりするんだよ、病気になったら大変だからね」

 

俺はそれら逐一を頭に入れながら頷いていく

てか詳しいな、そりゃそうなんだろうけど

蒸留酒って・・・なんです?」

「ブランデーやウオッカ、ジンとかのお酒を加熱してあるものだよ、ここらへんだと米焼酎とかかな?」

 

「はぁ」

 

申し訳ないけど聞いてもわからなかった。

 

そっからの流れは、

 

意を決する

血を上げる

喜ぶ

 

「もしこの機会がなかったんだとしたら今すぐ君にハグしたいくらいだよ」

 

俺は別にいいですけどそれで

 

疑っていたわけではないけど本当に飛んでいくヴァリスさん

 

しっかしイメージしていた吸血鬼と大分違うなあ

俗世に染まっている感がある。