紅蓮のゆうび’s Diary

役に立つ、読みやすい、ように努めるただの日記。

12 痴女・メディナ

 

 

 

 

 




本物の痴女を初めて見た

あれは架空の人物かあるいは空想上の産物だとばかり思っていたが

いやはや本当に生きてる間にこの目で見ることができるとはな 

 

なんて言っている場合じゃない

 

朝起きて「ベットからでられないなー」なんて考えていたら急に横開きのクローゼットから人が現れた

 

 

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それは人型で赤茶色の髪の毛をしていた……

人間であった

 

クローゼットは一般的なやつで、決して抜け道があるとかマジック用で使われる奴とかでは断じてない

 

つまり物取りか部屋を間違えたかあるいはただのいたずらか本当に……

 

「なんだいここは……?」

 

相手は呑気な声でそう言いはなった

きっと彼女もミアと同じタイプの人か……あるいはっ

 

何故だか彼女と目があった瞬間に本能が警笛をあげた

右手は無意識にゆっくりとクローゼットの方向へと

 

さっきまであんなに布団から出ることを渋っていたのに今では手のひらを返したように飛び起きる俺

 

文字通り手のひらを彼女へと向け、

右足を肩幅前に出し、自然と構える俺

 

「……」

「なんだい……よくわからないけど」

 

「やるっていうのかい?」と相手が呟く

ひょうひょうとしている態度だが、その節しっかりとこちらを捉えているしっかりとした状態

 

銃を撃ったことなんて一度しかない

正確には銃ではなく「イル」と言っていたが

 

ましてや人に撃ったことなんて一度も

そして本物の敵と敵対したことなんてなおさら

 

でもそうまでして俺は何となくその人そこから動かしちゃいけない気がした

あの人をクローゼットから出しちゃいけない気がした

よくわからないけど、何かがそうさせた

 

相手の目が鋭く細くなる

 

「っ!」

「へぇ、あんた人と戦ったことないだろう」

 

ばっちりこっちが素人だっていうことはばれているようだ

そうだよ、だからなんだってんだ……

 

「なにしにここへ?」

「さぁ、なんだっていいだろう?」

「!!」

 

部屋の中で銃をぶっ放すなんて俺には絶対できない、なんて言い訳が霞むくらいには彼女との差は歴然であった



一歩どころじゃない、五千歩くらいの遅れ

その差が仇となった、いや差というよりも溝か?

 

まぁいいや……

 

そんな些細なことがどうでもよくなる程の、目にも留まらぬスピードで彼女は距離を詰めてくる

 

もちろん物理的に

 

気がつけば俺の首には正面からナイフが当てられていた

 

極めつけに俺の右手はしっかり彼女の左手によって抑えられていた

実力の差を感じさせる、鋭い一手

 

もう寝起きドッキリは勘弁してほしい

 

「なんだい、アンタ結構いけるじゃない」

 

どこをどう見たらそんな感想がでてくるのか

まったく……俺は俺で何してんだか

 

塵くらいの希望をかけて相手がただの泥棒だという方に賭けたいけど

きっとそんな優しそうな存在ではなさそうだ

 

簡単な話。ミアと同じタイプの住人であっただけのこと

 

だとしたら俺に勝ち目なんざ万が一にもありはしなかったのに

なぜこんなことをしてしまったのか

 

緊迫した空気の中ほのかな血の匂いを感じ取る

きっとこれが原因だったのだ、ということにしておく

 

いったい何処から取り出したのかナイフが冷たい

それが伝染するように俺のカラダから体温が下がっていく

 

これは本格的にやばいかなぁ

 

昨日生き残れたからといって今日も生き残れるなんて保証はどこにもない、だれかが俺の生命を担保してくれるわけでもなし

ミアの時はなんとなく子供だからという心成しの余裕があったけど今回はちがう。相手は大人で強烈なフェロモンに混じって血の匂いがする、だとしたらもう余裕なんていう余暇は粉みじんもありはしない

 

「あんたやっぱり……」

 

相手方の目が少し揺れるが、それは決して油断のそれではない

 

「な、んだよ……」

「死んだ弟に……」

 

どんな非常識な会話だよ

人の顔つかまえて死んだ弟に……とか

 

「に、似てんのか?」 

「いや全然似てない」

 

俺はずっこけようとしたがそれすらも相手によって阻止される

 

似てないのかよ

じゃぁ何を聞こうとしたんだよ

 

そんなおしゃべりも作戦だったのか

気がつけば俺はベッドに横たわさせられていた

 

「ッっ!」

 

背中がきしむ

 

そうして瞬時に俺の右手と致命的な首を同時に抑えられる

ちなみに首にはもちろんナイフが添えられている

 

よくわからないがきっと足払いでもされたのだろう、かかとが痛い

 

今日の晩飯はこのままでは俺になりそうだ

なんて冗談を言っている場合じゃない

 

「こ、降参だ……んで? 何が聞きたいんだ……」

 

俺は声を震えさせながらそう聞いた

 

腰さえ万全なら本気出せたのになんて

 

毒吐きを言おうとしてやめる、なんだかミアのせいにしているみたいで嫌だったからだ



「あっはっはっは! アンタ声震えてんじゃないか」

「うっせ、ふ、ふるえてねぇ」

「はぁ……似てるよ、やっぱり」

 

なんの真似か頬を撫でてくる

 

さっきまで都合よく、ミアにブレスレットもらっといてよかったなとか思っていたけど

よくよく考えたらこんな危ないもん見せなければこんな結末にはならなかったのではないかと思わなくもない

 

「子供を痛めつける趣味はないんでね」

 

そういってナイフを輝かせて腰にあるホルダーに仕舞ってくれる

殺人がいつでも出来る四つん這いから俺の身体に馬乗りに乗ってくる

 

どちらにしたってピンチなのに違いはない

 

「……」

「なんだい?」

 

俺はとりあえず相手の目から体に視線をうつすことにする

 

適度に引き締まった身体と抜群のプロポーション、肌はやや白めであんまり外とかで遊ばないのかなとか思ったり

 

腰にはポシェットと、ホルダーがぶら下がってる……

どう考えても現代の物ではない

 

ということはやはり

 

「……」

「もしかして欲情しちまったかい?」

 

思考が止まる

 

「……」

「なぁーに赤くなっちゃってんのさ! このこのぉ! さてはお前さん童貞だなぁー」

 

鋭い爪で何度か頬を刺される、いてぇ




意識しないようにしていたがこのお姉さんまぁまぁな美形だ

それに服装が特になんか、ビキニアーマーみたいな恰好しているからより一層困る

 

だから今俺は焦っている訳なのだが

 

今思い返すとあれは本能的な恐怖で動いたわけではなく

ちょっと恥ずかしいけど性的な畏怖で動いてしまったのではないかと俺は予想する

 

例えるならば、肉食動物に睨まれた草食動物みたいな

 

あちらは無意識無条件で威圧を放ってくるけどこっちはそれに対しただ助かりたいと思っただけなんだとしたら今回も俺の所為じゃないと思いたい……

 

なんであれ人に武器を突きつけるなんて行為は最低であるが

もちろん自分に対して言っているのであるが

 

「いや、だから……目的は?」

「はぁん? もくてきぃ?」

 

何とか俺は話題をそらす

無垢な少年の童貞いじりは心に響くからやめていただきたい

 

「そんなもんないさね、ここはどこだい?」

「えーー……日本で、伊里ヶ丘……です」

「あぁ、そうかい」

 

いやこの人何しにここへ来たんだ

 

「えっと、あそこから来られたの?」

 

クローゼットを指差す

 

「んぁ? そうそう、階層踏んでたら飛ばされてねぇ」

 

「フリフティーバットの群れに襲われて危うく死ぬところだったんだよぉ」と豪胆する彼女

ちょっとなにいってんのかわからない

 

「元へは、帰れるんですか?」

「んー? さぁ、知らないさね」

 

おいおいおい、勘弁してくれよ

 

「えー、試したほうがいいじゃないですか」

「なんだい、邪険にするのかい? 悲しいじゃないか」

 

そういいながら腰を前後左右に揺らす彼女

 

「ちょちょちぃ! やめさい」

「なんでさぁー?」

 

いやらしく聞いてくる赤茶髪

 

「ちくしょう……俺に力があれば」

「そんなかっこいいセリフをこんなとこで吐くのはやめてくれるかい」

 

しょうがないねーといいながら姉さんは俺からどいてくれる

 

とそこで外の景色が目に入ったらしい

窓の近くへ駆け寄っていく

 

「おおおお!! なんだいここは? 地下街かい? それにしては明るいね」

 

あそうですか

 

とりあえず流しておこうとしたけど俺はなんとなく嫌な予感がして彼女を引き留める

 

「いやちょっと待って! まさかこっから出ていこうとしていないよね?」

 

念のため窓を急いで開ける

赤茶髪は跳躍の姿勢、とぶ一歩前で止めてくれる

 

「なんだい、後髪を引くなんて通じゃないね...流石に初対面でまぐわうほど安い女じゃないよ?」

 

後半は聞かなかったことにする

理解不能

 

え、ていうかがっかりしている自分がいる。

 

「その、その、その格好で行かれるんですか?」

 

髪の毛と同じ色のビキニ―アーマーのような防具

別に行くのは自由だけど、そのやはりモラルというか

 

というか俺の部屋の窓から痴女が飛び出してくるなんて想像したくもない

誰かに見られたらどうするんだ

 

「童貞ちゃんには刺激がつよいのかい?」

 

比較的優しい声で神経を逆なでしてくる赤茶髪

 

「ぐっ、童貞いうな! ……その、服着てよ」

「えー、これがアタシのスタイルなんだけどねー」

 

いや知らんがな

それは立派なわいせつ罪にあたるんだからなんとかしてよ

 

警察に捕まっても俺は知らんよ

というかその場合職務を全うしてくれている善良な一市民がひどい目に遭わされるかも……

 

最悪の想定をしたところで俺は必死に説得する

 

「あの! こ、困るんですそんな姿で出歩かれると!」

「いいじゃないか減るもんじゃないし」

 

いや人類が減るかもしれない……

違う違うそうじゃねぇや

 

このお姉さんが簡単に人を殺すような人に見えないけど

だからといって――

 

「いや、僕らが気にするんですって」

「アタシは気にしないよ」

 

俺はそのあと必死で説得するも聞き入れてくれない

この天然痴女めぇ

 

しょうがない、嘘も方便という奴だ

最後の手段にでよう

 

「宗教なんですよ」

「ぁん?」

「この外には厚着族といって二枚以上の上着を常備着ている民族なんです。なんでもその昔長袖の神が活躍したそうでみんなその神様を信仰してらっしゃるんですね。なかには結構過激な人たちもいて、強硬手段にでたり少々手荒い歓迎を受けたりします。だから長袖を着ていないと集団リンチに遭いますよ」

 

なるべく早口で、それも何も考えないように自信満々に言い放つ

反応やいかに?

 

「……そいつは恐ろしいねぇ」

「……そりゃもう」

 

折れた……か?

 

「はぁ……しょうがない、伝承はともかくアンタのその熱意に免じて厚着を着てやるよ」

 

よっし!! よっし!! あっぶねぇ、信じてはいないようだが、なんとかなった

 

彼女はもう一度ためいきを吐く

どんだけ服着るの嫌なんだよ

 

「ただし、なんかの罠だったら、ただじゃおかないからねー」

 

そういって釘を刺してくる姉さん

んなわけねぇだろ、純粋な善意だわアホが

 

俺は小走りで彼女が出てきたクローゼットへ、そこから緑色のモッズコートを取り出す……

 

『もわんもわんもわん』

 

そこでとんでもないものを見かける

奥行きのあるくらい空間が右往左往していた……形容しがたいやつ

 

え? クローゼットの奥ってこんなにダークファンタジーな感じだっけ?

 

…………パタン

 

「見なかったことにしよう……」

 

俺は首を振ってすべてをフィクションとする

 

オールフィクション

 

「なんだい? ないのかい」

 

さも残念そうな声を出すレディ

 

「いやある! あるから」

 

そうはいかない、意地でも着させてやる

そうしておれは彼女にコートを渡す

血の匂いが付くとかはこの際気にしない

 

「なんだいこれ? これじゃぁ襲われたらひとたまりもないじゃないか」

 

アンタにかなう日本人なんていないよきっと

それにもともと防御力ゼロが一くらいに増えるんだから文句いうなや

 

着るのに手こずる様子

とりあえず後ろから着るのを助ける

 

「アンタ……お節介なんだね」

「うっせ」

 

いやはや……これはこれは

 

もともと着衣が好きだったって言うのもあるけど

コートの下からのぞく生足はなかなか目を見張るものがありますね

 

もともと足もお綺麗なようですし

節操のない冒涜的な露出より俺はこういった適度なエロの方が好きだなぁ

 

「もしかしてただ、着せたかっただけとかじゃないだろうね?」

 

ゆっくりと首を横に振って否定する

 

「違うよ」

「ふーん、そうかい……」

 

「首を横に振った理由はよくわからないけど」と言いながらコートの裾に手をかける赤茶髪

 

「え、なにすんの」

 

裾を上げたり下げたりし始める彼女

その謎の艶美さに俺は目を逸らす

 

「いやなんか落ち着かなくて……って、何照れてんだい? さっきよりも露出は減っただろうに」

 

どうやら露出という概念はあるらしい

 

「いや、そうゆうもんなんだ」

「ふーん、アンタはこういうのが好きなんだねぇ、物好きなこって」

 

そういって片足を上げて下に着ているものをチラチラ見せてくる

 

「おおおい、からかうのもいい加減にしろやっ、もう行ってしまえ」

「あっははっは! 照れてる照れてる」

 

俺はその態度に何を感じたのか財布と携帯をもって玄関へ向かう

おっと、弁当箱忘れるところだった

 

「怒ったのかい?」という言葉に対し俺は無視という肯定を差し出す

「なんだい小さい男だねぇ」

 

そんなどんぴしゃなことを背中越しに言われる

 

うぐぅ

 

あまりに図星過ぎてなにも言えない

 

「でもまぁ、ありがとよ」

 

と急にそんな優しい言葉をかけられる俺

振り向かずに俺も答える

 

「いいよ別に。でも何があるかわからないから気をつけるといい」

「なんだい心配してくれているのかい?」

「まぁ」

 

ここは一応地元だからな、心配もするさ

友人が首元にナイフを突きつけられるなんて夢でも思いたくもない

 

「フフっ、ありがと」

 

綺麗な声だった……

つい俺は振り向く

 

「お、目があった」

 

したり顔でそういってくる

 

瞬時に俺は向き直る

なんかめっちゃ馬鹿にされた気がする

 

「日が暮れる頃には帰ってくるから……なんかあったら勝手にすればいいっ」

「あー、自己責任な。ギルドの掟さね」

 

靴を履いていると「地下にも太陽は存在するんだねぇ」と呟きが風邪に流れて聞こえてくる

 

むしろ俺は、アンタんところの世界にも太陽は存在するんだねぇとか思いながら

 

玄関のドアを閉める時に見た後ろ姿は、窓からの惚れ惚れするくらいの綺麗な跳躍であった

 

これで着地時に骨とか折ってたら笑う

絶対に助けないとこ





「なんか昔を思い出したな……」



地元の人とはうまく話せないけど、なぜか変態や変人とは上手く話せるな……

 

 

*********













明日学校休もうかなぁとか思いながらアパートの階段を上がる



帰ってくるとコートを着た痴女が体育すわりでいじけていた

これは予想外でした......

 

いや、ある意味予想以上というべきか、

 

「え、どうしたの?」

 

缶コヒー持ってるし

誰からぱくったんだソレ……

 

「遅いじゃないか! そんで恐いし寒い!」

 

そういって抱きついてくるお姉さん

!あたってるんですけど、という驚きよりもその身体の冷たさに俺は物思う

 

ざまぁみろ俺にナイフ向けた罰だ...…なんて思わない

 

「あ、ごめん、なんかすいません」

 

俺は遅くなった? ことに対して謝礼をする

 

「えぇ? 急にしおらしくされると今のコンディションじゃぁコロッといっちまうよー」

 

「ぅぅぅ」と呻きながらスリスリと身体を寄せてくる赤茶髪

とりあえずスルー

 

鍵を開けて中へ入る

中を見ると窓は開きっぱなしだった

 

「え? なんで窓から入らなかったの」

 

俺は不思議に思い質問する

 

「なぜか入れなかったんだよ......こう、見えない壁? みたいなのに邪魔されて」

 

そういえば吸血鬼もおんなじようなこと言っていたな

二人とも壁を破壊してまで入ろうとしないだけありがたい

 

室内で魔法は発動できなかったし、魔除けの加護と侵入妨害結界でも張っているのかい? と、ついで聞かれたが頭目見当もつかない

 

「わっかんないっす」

 

そういって中に入る

 

「おぉ! アンタといると入れるよ」

 

嬉しそうにちょっとだけ飛び跳ねられる、胸があたる

 

まさかとは思うが玄関からなら入れたとかじゃないよね?

ともあれ最近はあったかかったのに、寒くなってきたな......

 

急な温度変化は勘弁していただきたい

 

壁に貼り付けてある暖房のリモコンをオンにする

 

「今あったかくしますんで」

「へぇ、魔力もないのにどうなってんだい」

「僕に聞かれてもよくわかんないっす」

「ふぅーん」

 

機械の仕組みなんてよくわかんないまま使ってる

 

ところで

 

「いつまでくっついているつもりですか」

「えー、いいじゃないかぃ、寒いんだよぉ」

「もうあったかくなるんで、離れてよ」

「それにちょっと心細かったしさ。聞いてくれよ、ここにいる人たちみんなアタシのことジロジロ見てくるんだよ!」

 

俺は本当ならここで、長ズボン履いてないから厚着族に警戒されたんですよ、とか言わなければならないところをそんな設定すっかり忘れてボロがでてしまう

 

「あそうですか......魅力的に映ったのでは?」

 

実際俺もその綺麗な脚線美見ちゃいますし

 

「んんっ! 嬉しいこといってくれるじゃないか!」

 

ハグした状態から頭を結構乱暴に撫でられる俺

ハゲるからやめてくれ

 

「いやいや、俺は思ってないっすよ? 街のみんながそう思ったんじゃないかって」

「誘ってるのかい? いいよぉ、アンタとなら悪い気しないよっ」

 

話聞いているのか

 

「誘ってないし! いいから離れてくださいって」

「照れるな照れるな」

 

さらに拘束を強めてくる姉さん

とりあえず話題を変えるか

 

「あ......あなたメシ、食ってきます?」

「えぇ? いいのかい」

「えぇ、男料理ですけど」

「そんな、食えるんだったらなんでもいいよ!」

 

離してくれる気はさらさらないようで

 

「ちょそろそろーー」

「アタシは......メディナ。名前、なんて言うんだい?」

 

意外と可愛らしい名前をしている姉さん

 

名前...?

名前か

 

「イツハ」

「イツハ? 変わった名前だね」

「アンタもそれ言うんだな...」

「やっぱ言われるのかい」

「いや、一人にしか言われたことないけど

「へぇそうかい?」

 

やっと離してくれるメディナさん

 

俺はポットに水を入れに行って

御茶でもいれようかしたところ

 

唐突に地面に押し倒される

もちろん姉さんの手によって

 

「え?」

 

腰が痛い

 

「いや……別にするつもりはなかったんだけどね」

 

メディナの顔が至近距離に展開される

俺は仰向けで、彼女は今朝と同様獲物を狩るような四つん這い

 

どちらにせよピンチなようだ

 

「……」

「どうしたんだい、随分驚いているようだけど」

「……え? いやそりゃ驚くよ」

「なんでさ? そんだけ無防備でいられたらこっちもその気になるじゃないか」

 

どういう理屈だ

 

「朝、会ったときは、そんな気はないみたいなこといってませんでしたっけ?」

「おもいのほか好みだっただけさ……イツハ」

 

俺は感涙にむせび泣きそうになる

そんなことを言ってくれる女性がいてくれるとは

 

「えぇぇ、ありがとう……ございます」



「姉さん佳い匂いがします」

 

ボソとつぶやいた、そんな発言がどうやら地雷だったらしい

 

姉さんは俊敏なチーターのように俺から身を引くと、すぐに後ろを振り返る

 

「か、帰るっ」

 

チラリと見た横顔はうっすらと朱に染まっていた

もう日は暮れたので言い訳はできない

 

「え?」

 

彼女もひとりの女性だったと言うことか

それともそれがたまたまコンプレックスだったのか

 

どちらにせよ俺はきっとサイテー

悲しんでいるかはどうかは知らないが

 

まず不快にさせたのはまずもって間違いないだろう

 

そこからゆっくりクローゼットへと向かい、中へ消えていくメディナ

 

ごめんといおうとしたけど躊躇う

なにをかけたらいいのかわからず躊躇

 

気が付けばまた俺は一人であった

いやまぁいつも通りなのであるが

 

耳鳴りがする

 

「俺はいったいなにをしているのか……」

 

まったくなにが勘にふれてしまったのか

何がいけなかったのか疑問はつきないけど

 

こんなときこそ俺は優雅にお茶を入れて

午後の紅茶のひと時を楽しむのであった


惜しいことをいたとか思っていない。

落ち着いてからクローゼットを見てみたけどやはり誰もいない

それよか人が一人いた気配すらまったく感じさせない

黒いもやも俺の妄想だったみたいに消え失せている

 

いよいよ俺は頭おかしいんじゃないかと思い始めたところで



部屋には微かな血の香りと

強烈なお姉さんのフェロモンのにおいだけが残っていることに気付く

 

「どうか俺が正常であると願う」




一人分の飯を作って、一人でちゃぶ台で食べる俺なのであった