紅蓮のゆうび’s Diary

役に立つ、読みやすい、ように努めるただの日記。

17電車令嬢Ⅱ

 

 

 

 

 

帰るという趣旨を伝えると一応鳥居のところまで見送ってきてくれるキララ

彼女にも巫女のプライドはまだ残っているらしい……


また睨まれた


なんなら麓まで送ってくれないかなぁとか思いつつその邪念を霧散させる

それは流石にカッコわるすぎる


「ださっ」


ださとか言われた傷つく


「お化けが怖いならこのお札買ってく?」と言われ、俺が心の中でどうせ高いんだろうふざけんなと思ったところ「安いわよ、一万」と言われたのでとりあえず心の中で唾吐いておいた「誰が買うかばーか」


彼女をチラリとみて俺は背を向ける

掃除も意外と嫌いじゃなかったりする


もっと言えばここの掃除は楽しかった

……いや、それは嘘

 

「んじゃ」

 

「あぁ、最後にこれだけ施しておくわ」

 

「なに? うわぁ!」

 

彼女は俺の腹に手を忍ばせてお腹を撫でていく。

 

「それじゃあね」

 

その後何事もなかったのように離れる。

 

どういうこと?

 

俺は背後を振り返る

 

巫女さんはすでにそこにはいなかった


「まぁいいか」


俺はこの時このことをあんまり気にしていなかったけど、もっと突っ込んでもよかったと思う

 

 

 


ともあれ、あの札買っておけばよかったと後悔

足元見やがってあのアマ...


薄暗くなっていくにつれて恐怖心が増長してくる

 

一人で山道を下りるのは何とも言えない心細さがある

 

光を失った木の影が全部人の影に見える


色々言いたいところであるが


俺は全力で木々の間を走って駅に向かう

アキラによれば、これを逃すともう三十分くらい駅でまたなければいけないらしい

決して夜が怖いからとかではない

時間が無いから走っているだけである


木の葉が顔にみえたりとかはしない絶対

 


ヘトヘトになったお陰で無事に薬参路駅に着くことができた


安心したのもつかの間


「あー怖かった」

「おや珍しいね」


油断したところで誰かに話かけられる


ひょえええええええ!!ってなった

振り返るとなんだ、ただのババァだった


脅かすなよ


今度は美女ではない笑


「なんですかもうっ......」

「いやのう、こんな駅に人が来るもんじゃからついついのぉ」

「えぇ? なんでよ」

「そりゃお前さん、ここがそういう駅じゃからじゃろう」


ババァの目が険しく光る

心臓が飛び跳ねる


「ばぁちゃんやめよ! 怖い話でしょ?やめよ!」


初対面でなんなんだこの人

 

因果応報もいいとこだ


「なんじゃバレたかい......」


そう言ってふぉっふぉっふぉと笑うおばあちゃん

 

悪い人ではないのは確かなんだろうけど


「はぁー?」

「なぁに、焦って改札乗るもんじゃから少し意地悪したくなっただけじゃわい」


どうやらからかわれただけか

焦っていたから周りが見えなくなっていたのかもしれない


「あぁ、ごめんおばあちゃん、なんか迷惑かけた?」

「なーに、ただ儂がとうろうとした改札を横取りされただけじゃわい」

「うわーごめんなさい」


再び笑うおばあちゃん

 

この田舎駅には改札は1つしかない


「素直に謝ってくれたらそれでいいわい」


飴ちゃんもらうか? といって一つもらう


そこでちょうど電車が来たので俺は何も考えずに乗ろうとする


「お前さん、その電車はやめておいた方がいい」

「なにっ? また怖いはなし?」


意外と根に持たれている!?

とか思いながらあげた足を下げる俺


「回送電車じゃ」


冗談抜きで回送乗ると返ってこれんぞと言われる


「あ、ありがとうございます」


結局ちゃんとした電車が来たのは5分後だった

 

*********

 

車内にはおばあちゃんと俺の二人しかいなくて怖かったりする


「暇じゃのう」

「いえ、全然」

「怖い話でもするかのぉ?」

「致しません」


ババァは笑う

どうやら本当に暇みたいで、しきりに怖い話をしようとしてはこちらの反応を見ては笑っている

 

暇かよ


「ふぉふぉ、怖い話の何が怖いのか、別に自分で体験したわけでもあるまいし」

「そうじゃなくても怖いんですぅ」


また嬉しそうに笑う


「そういえばお前さんはなんであの駅におったんじゃ?」


乗客が二、三人新しく入ってくる

顔がなかったりしない

ちゃんとある


俺はその姿にホッとする

ガン見していたら女性に睨まれた

おぉすんません


「えぇ? なんでって、ちょっと用事でね」

「お前さん、自慢じゃがないがあの駅は本当にいい噂がなくてな...」

「もうやめてよー」

「いやマジなんじゃて」


ババァが「マジ」とか使うな笑う


「実はナメ地蔵という地蔵があってじゃなぁ」

「もういいってばぁちゃん」


ふぉふぉふぉと笑う


『ドアがしまります――』


車内アナウンスと共にドアが閉まる

次第に列車は歩みをすすめて動き出す


「お前さん薬持っとらんか?」

「え? なんの薬?」


俺は心配しながらばあちゃんの方を見る


「実は薬山路駅から乗った乗客が薬を持っているとあの世に連れて行かれるんじゃ……」


結構な剣幕で行ってくるばあちゃん

その勢いに俺は奇怪なものを感じつつ


「もしかしてばぁちゃん持ってないよね?」

「それで...! なんじゃ、こっからが面白くなるところなのに」


このババァせっかく心配してやったのにぃ


俺はポケットにへんな薬とか入ってないか確認しながら

 

 

それを見たばあちゃんもカバンを確認し始める


「あ」


ばあちゃんがつぶやく


「今度はなに?」

「わし薬もっとったわい!」


そう言ってまたふぉっふぉっふぉと笑い始める

いやもう、どうでもいい


「どうしよう儂自分で作り話しておいて自分で怖くなって来たんじゃが」

「バカか」


始末に負えないなオイ

いや本当に知らんし


「いかぬ、本当に怖くなってきた、おい小僧、なんかハッピーでバイブスアゲアゲな話をせぬか」


肘でコツかれる


「んな無茶言うなよ」

「そういえば本当になんであの駅を使っとるんじゃ......なにやら急いどったようじゃし」

「えぇ? まぁ、神社行ってたんだよ」


それでよかったのかばあちゃんはまたふぉっふぉっふぉと笑い始める


いやまだ面白いこと言ってないから

話だったらなんでも笑うんかい


「お前さん下手くそじゃのう、怖い話をするのならもっと凄みを出さんとぉ」

「誰が怖い話の話なんかするんじゃ」

「だってお前さん、あの地域の神社と言ったら『あそこ』しかないじゃろう」

「ええ?」

「言わせるでない、言ったらまた怖くなってきたじゃないか」


「ちょっと、その話しないでよー」

 

と向かいの女性が牽制をかける


え?え?

ちょっと待って、俺も怖くなってきたじゃない

 

 

 

結論、電車内では何事もなかった。そう、何も。

 

 

 

 

夜道を歩いてみればわかると思うけどあれって結構怖いんだよね


特に街灯のないちょっと人気の少ないようなところなら特に


先のキララさんの話を思いかえす

『あなたいろんなもん引き連れているのね』


俺は今回駅前商店街を通らずに敢えて人通りの少ない、駐車場ばっかがある反対側の通りを歩いているけど


「失敗だったな...」


アキラしかりキララさんしかり

怖い話を聞いた後は

一層ビクビクしてしまう


正確には怖い話ではなく霊的な話であるが


どっちにしたって同じこと

 


不意に足音が後ろから聞こえる


「いやいや、足音なら大丈夫...相手は人間だから」


俺は安心しつつ後ろを振り返る


だ・れ・も・い・な・い


うわぁぁ! なんて...そそそそう簡単に俺が驚くとでも思ったのか


単に曲がり角を曲がっただけだろうが

だから足音がなくなったんだ


騙されないぞ


誰とも知らず一人言い訳をする俺


もう一度歩き始める...


コツ、コツコツ


やっぱりだれか後ろの方にいる!


最後、最後だけだと思い俺は後ろを振り返る


だれもいない! 


「わあああさあああああ!!!」


俺は全力で走りはじめる。

いなかった!

本当にだれもいなかったのだ!

 

しばらく走って俺は息が切れる...

あともうちょっとで俺のよく知っている道に出る、そこから家まではもうすぐだ


それだけでホッとするが

今はまだ安心できない


遠くから足音が聞こえてくる


まるで必要以上に俺を狙っているかのように


冗談でしょ?

なんで俺が


そう、逃げるために、顔を上げた瞬間だった

 

俺はこの日、盛大に後悔することになるのであった。