紅蓮のゆうび’s Diary

役に立つ、読みやすい、ように努めるただの日記。

15電車令嬢

 

 

誰もいない列車


一人乗客が入ってくる


女だ、嫌な予感がする


目の前に座る


こんなに空いているのにわざわざ目の前に


生足が見えるショートとスカート

 

肩丸出しのチューブとバッククロス

 

春にしてはただの暑がりさんの登場だ

 

 

 

f:id:illustyuuki:20200917020344j:image

 


「ねぇお兄さん」


いやいや怖いから


「ねぇお兄さんってば!」


「ふあぁ!!」


視界に快活系美人が飛び込んでくる


「無視しないでよ」


「あぁ、俺に言っていたのか...」


「常連じゃないわね、何しにこの列車に?」

 

電車に常連もクソもあんのかよ


「神社」


どこの?と意味深に怪訝な顔


「どうせ言っても分からない」


「そんなわけないわ。私はここ一帯の地域に詳しいのよ? 言ってみてよ」


白神社


「どこ...そこ?」

 

しらんのかーーい


「言っただろ。わからないって」

 

それよりくっつくな

 

「えぇん、うそ、そんな神社ここらには無いハズ」


次の駅に着く

乗客が何人か入ってくる


「私もついていっていい?」


「物騒だな、しょたいめんなのに」


「田舎だよ〜? そんなの気にしないよ」

 

言うほど田舎か?


「俺は気にする」


「え〜、いいじゃんお兄さん」


そう言ってベタついてくる

 

彼女の生肌肩がおれの肩に当たる

 

良き香りがする

 

そして


怖い怖いよ

 

初対面で快活系女子は都市伝説だ。と言うことは彼女は神話系の何かかあるいは詐欺的な何かの可能性が高い。

 

そしておれは現実的に考えてもちろん後者を想定する。なぜならここは現実だからである。

 

 

ということで。

 

 

 

「ねぇお姉さん」

 

「なに、そんな怖い顔して?」

 

「電車から伸びる手、って言う話し知っている?」

 

「なにそれー!怖い話?」

 

「いいや、全然怖くない」

 

「えー」

 

これは俺が電車で体験した話

 

その日俺は友達と飲んでた。

 

その日俺は電車で飲みに行っていた為帰りも電車に乗った。

 

夜も遅いため人は少なかった。

 

でも何かおかしい...


俺は椅子に座り最寄りに着くのを待っていた。

 

その時だ。。。

 

電車の窓を見ると白い手がうっすらと見えた。

 

「きゃぁーーっ」

 

おいくっつくな

 

そう、ちょうどお前くらいの白い手だった

 

「いやいやん!やめてよそういうこと言うのぉ!」

 

その病的にまで白い手は俺のことを掴もうとして、

 

「その手は次の瞬きのタイミングで消えていた」

 

「ホ...」

 

俺は何だ見間違いかと胸を撫で下ろし、額にうっすらと汗を浮かべた

 

そして、その汗を拭おうとして右手をあげようとしたとき、右肩に違和感を感じた

 

「なに...なにぃ!?」

 

そう右を向いたとき

 

俺の肩に白い手が乗っていたんだ

 

わあぁああああああ!!!

 

俺は自分で言った話に怖くなって駅を降りた。彼女は俺の叫びに驚いて腰を抜かしている

 

はぁ、はぁ、はぁ...

 

あーーーーー

 

なんで俺あんな話したんだろうか...

 

 

 

 

ロールプレイングっていうのは

 

実際に起こりそうなことを

 

演じること

 

それが妄想であるのならば

 

ロールプレイングではない

14雑談あきら

 

 

 

 

なぁアキラ

 

クカカ、なんだ

 

雑談ってどうやってするんだ

 

クカカ簡単だ

 

まず自己開示して、あんたはどうですかと聞けば良い

 

すまん、もう一度いいか?

 

まず自己開示だ。俺は昨日ラーメンを食べた。

 

意外と普通の食い物くってんだな

 

お前はどうだ

 

俺は……紅茶とか

 

変わった主食だな、ダイエットでもしていたのか

 

いいや、そういうわけではない

 

紅茶といえば、俺は午後派だが、お前は花伝派か午後か派?

 

午後派だ

 

そうか。いいじゃないか

 

いいのか

 

コツは自己開示で相手に理解されやすい話題を選ぶこと、そして自分の話をしすぎないことだ

 

ふむふむ

 

急にどうしたんだ。好きな女でもできたかクカカ

 

いいや、雑談ってなんだけって思って

13ネットの友人

 

ミアどうしてるかなーなんて思いながら玄関のドアを閉め鍵をかける

 

ちなみに今日の朝は、家に誰も来なかった

 

その思考性自体が異常あるいは妄想的だと言うのに......

 

確かに俺は真っ当な生き方をしてきたわけではないが、まさかここまで清純な道から外れるとは

 

ここまで妄想癖なのか、あるいはこの世界がおかしいのか

 

右の部屋の玄関が開かれる

 

その日俺は久しぶりにとなりの部屋のお隣さんに出会う、お昼なのに珍しい

 

「あ、おはようございます...」

 

軽く一暼される。あれ、なんか冷たい?

今日も今日とて扇情的な黒いスーツな格好をされている彼女。なんの仕事かは知らない

 

ちなみにあの冷たい目は後期の始めあたりに女の子が落としたハンカチを拾って渡した時の反応を思い出す

 

「女の子を外に、それもあんな格好で待たすのは……どうかと思う」

 

そう言って去って行く

なにを言われたのかわからずお隣さんを見送る俺

 

f:id:illustyuuki:20200615005542j:plain

 

目の前を通過していき階段を下りていく

 

「え?」

 

なんの話だ?

あl

昨日のもしかして見られているのか

あちゃーー

 

俺は天を仰ぐ

 

「あれは僕の……」

 

彼女でも友人でもなんでもない……といったら悲しいか

彼女はいったいなんなんだろうか

そしてなんだったんだろうかあれは

そして俺はお隣さんになんて言い訳すればいいんだ

 

いやまさかあの恰好を見られたんじゃないよな?

だとしたら完全に夜にイイコトしてくれるお姉さんを呼ばれたと思われるよっ

 

ちょっと恥ずかしい

別にいいんだけど

 

でも女の子をほったらかしにするような人間だとは思われたくないよね

まぁあの蔑むような目で見られた後、あの方を追いかける勇気なんて俺にはないんだけど

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

学校に行ったらアキラがキャンパスのベンチで黄昏ていた

 

キザな奴め

 

大学はちょっとした丘の上にある

どうでもいい話だが、もともとここら辺には本来丘しかなく、物好きな人が何もないのに大学だけを建てたらしい。ビジネスとしてはとんでもない。そしたら次第に町が形成されていって、ここら一帯に人が集まったと言われている。とんだ運の持ち主である。だから名前も伊里が丘の名を冠したイリ大学と呼ばれている

 

キャンパスの真ん中は他の大学と同じように中庭があり、さらにそこにはいくつかベンチが設置してある

 

そこの一つにアイツはいた

イケメンだから様になるところがまたハラタツ

歩み寄り声をかける

 

「よぉキザやろう」

「ん、お前か...」

 

アキラとの馴れ初めは全く覚えていない

よくわからないけど気づけば知りあっていた

これは別に俺が記憶力悪いわけではない

 

実際ミノルとの出会いは覚えている訳だし

いや、あれはあれで印象に残るファーストだったからなんともいえない

 

「吸血鬼って、知ってる?」

 

単刀直入に聞く

 

「あぁ」

 

帰ってきたのは肯定

 

「それってこの町にもいる?」

「目撃情報は何個か寄せられているが……」

 

アキラはッフと鼻で笑う

なんだよ

 

「まさか貴様がその手の話を信じるとはね」

「いやその件についてはごめんなさいだよ」

 

先日まで全く信じていなかったのに急に手のひら返ししてくる俺を、きっと笑うに違いない

しょうがないといったらそれまでだが、俺もアレだけの経験をしておけば信じざるを得ない

 

「クハっ、まぁいい……特に害はないと言われている、出会っても襲われるわけではなく、少し血を欲してくるくらいの些細な要求だ」

 

間違いなくアイツである

 

「本当に害はないのか?」

「目撃情報が少なくてな、よう調査中だ」

「そうか……」

 

彼の眉毛が上がる

 

「出会ったことでもあるのか?」

 

めんどくさいから嘘をついておく

 

「いいや」

「……そうか」

「あと悪いんだけどよ、魔女っ娘が急に家に現れた件とか、クローゼットから痴女が現れる噂とかあったりする?」

 

アキラはそんな突拍子もない俺の質問にもしっかり答えてくれる

 

「魔女っ娘はないな……痴女の件なら似たようなのが一つ」

「本当か! どんな?」

「箪笥から騎士が現れたという噂ならある」

 

箪笥から騎士……?

 

「それほんとうなのか」

 

これを呟いたらめっちゃ嫌な顔された

「あ、ごめんごめん」と謝っておく

アキラは信用されないことがなによりも嫌いなのだ

 

それにもとはといえば俺から聞いておいて信用しないというのは友人として失礼すぎる

 

友人ではないかもしれないが

 

「まあ確かに箪笥から騎士は目撃情報が一件しかないからな……情報としては少し甘い」

 

そんなもんかと俺は納得する

 

「あと俺お祓いしてもらいたいんだけど、オススメのお祓い所知ってたりする?」

「丈量合切人同社の神社がオススメだ」

「ごめん、もういっかい言ってもらっていい?」

 

俺は携帯を取り出す

 

「北の天羽神社と呼ばれている。調べても出てこない。あとで詳細を送ろう」

 

最初っからそう言ってよ...

 

「北の天羽神社ね……ありがとう」

 

携帯をポケットにしまう

 

「そこの巫女は少々難ありでな、まぁあまり叱咤しないよう頼むよ」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「それと」

 

まだあるのかよ

 

「辻斬り……はどうでもいいな、最近駅前商店街の方で幽霊が出るそうだ」

「へぇ……幽霊」

 

その前振りみたいのを立てられたことで、俺は少しだけアキラを恨めしく思った

 

「面白いのが、その幽霊の名前がレイというらしい」

 

「……」

 

言い終えるとアキラは嬉しそうにクカカカカと静かに笑い始める

とりあえず俺も「あははは」と言っておくが、いったいどこら辺が面白かったのだろうか

 

「ともあれ丈量合切人同社にいくなら頼みたいことがある」

 

「あー、いつもみたいな無茶ぶりは勘弁してねぇ」

 

「なに簡単だ、――」

 

アキラは人差し指を何回か額に当てて思考の意を見せると。たっぷりと間を持って俺へと告げる

 

「その神社にある松毬(まつぼっくり)五つと松の針を八本頼む」

 

いつも俺はこのタイミングで「そんなもん何に使うんだよ」と聞いていたが、それに対する返事が一度でも帰ってきたことが無いので今回は割愛させていただく。

 

この前の団栗(どんぐり)と言い、今回の松毬と言い、ほんと変わった要求をするものだ。

 

「それが今回の情報の報酬ということでいいですかね?」

 

「ああ……問題ないとも、だが今日中に頼もうか」

 

「えぇぇー、今日中?」

 

「ふむ……ふふくか?」

 

「明日じゃダメなん?」

 

「明日は赤口だ……」

 

「なんだそれ、いいよ別に」

 

「可能なら十一時から一時の間に行動しておくといい」

 

「……いや、授業だし」

 

彼はまたクカカと笑うと

 

「そうか、まあ己が道は己で示せ。明日でいい……頼んだぞ」

 

「ちなみに松ぼっくりとかはその神社のやつじゃないといけないんだよな」

 

「もちろん」

 

彼は意味深に俺の右手をチラリと見た、その後まるで興味がなくなったように人間観察を再開させるアキラ

 

俺はたまにお前が異界人なんじゃないかって思うときがあるよ

 

情報の代わりの等価交換。こんなんで俺の自己中はきんこうは保たれる。

 

ともあれこちらも用はもうない

踵をかえしてミノルが受けている教室の方へ向かおうとすると、彼はもう授業が終わったあとだったのか外へ出ていた

 

気づいてくれたようで小さく手を上げ意思表示をしてくる

 

俺も軽く手をあげて答える

 

顔が見えてくる距離になるとミノルの表情がうかがえるように……

 

「なんかあったのか?」

 

彼のその顔は不機嫌そうだった

 

またあの人と会っていたの?

あ? まぁね

やめなよもう

いや、そんなに付き合わないと思うよ

そう? ……ならいいけど

 

行けるならお祓いに行こうと思っていたけど

 

なんだか嫌な予感がして18:00くらいに帰る

別に暗くなるのが怖かったとかではない

 

今から神社へ行こうとすると帰りが大分遅くなる

 

アキラが送ってくれた住所の詳細を見たらなんと

天羽の社、片道3時間もかかるのだ

 

明日の学校終わってからいけば16:00か……

 

 

 

==========

 

ネットの友人からダイレクトメッセージがきた

バイトをしないかと

 

信じていない訳ではないが、昔からのなじみとはいえ彼には前科がある。心して望まなければならないだろう。

 

 

 

 

 

 

12 痴女・メディナ

 

 

 

 

 




本物の痴女を初めて見た

あれは架空の人物かあるいは空想上の産物だとばかり思っていたが

いやはや本当に生きてる間にこの目で見ることができるとはな 

 

なんて言っている場合じゃない

 

朝起きて「ベットからでられないなー」なんて考えていたら急に横開きのクローゼットから人が現れた

 

 

f:id:illustyuuki:20200614005056j:plain

 

 

それは人型で赤茶色の髪の毛をしていた……

人間であった

 

クローゼットは一般的なやつで、決して抜け道があるとかマジック用で使われる奴とかでは断じてない

 

つまり物取りか部屋を間違えたかあるいはただのいたずらか本当に……

 

「なんだいここは……?」

 

相手は呑気な声でそう言いはなった

きっと彼女もミアと同じタイプの人か……あるいはっ

 

何故だか彼女と目があった瞬間に本能が警笛をあげた

右手は無意識にゆっくりとクローゼットの方向へと

 

さっきまであんなに布団から出ることを渋っていたのに今では手のひらを返したように飛び起きる俺

 

文字通り手のひらを彼女へと向け、

右足を肩幅前に出し、自然と構える俺

 

「……」

「なんだい……よくわからないけど」

 

「やるっていうのかい?」と相手が呟く

ひょうひょうとしている態度だが、その節しっかりとこちらを捉えているしっかりとした状態

 

銃を撃ったことなんて一度しかない

正確には銃ではなく「イル」と言っていたが

 

ましてや人に撃ったことなんて一度も

そして本物の敵と敵対したことなんてなおさら

 

でもそうまでして俺は何となくその人そこから動かしちゃいけない気がした

あの人をクローゼットから出しちゃいけない気がした

よくわからないけど、何かがそうさせた

 

相手の目が鋭く細くなる

 

「っ!」

「へぇ、あんた人と戦ったことないだろう」

 

ばっちりこっちが素人だっていうことはばれているようだ

そうだよ、だからなんだってんだ……

 

「なにしにここへ?」

「さぁ、なんだっていいだろう?」

「!!」

 

部屋の中で銃をぶっ放すなんて俺には絶対できない、なんて言い訳が霞むくらいには彼女との差は歴然であった



一歩どころじゃない、五千歩くらいの遅れ

その差が仇となった、いや差というよりも溝か?

 

まぁいいや……

 

そんな些細なことがどうでもよくなる程の、目にも留まらぬスピードで彼女は距離を詰めてくる

 

もちろん物理的に

 

気がつけば俺の首には正面からナイフが当てられていた

 

極めつけに俺の右手はしっかり彼女の左手によって抑えられていた

実力の差を感じさせる、鋭い一手

 

もう寝起きドッキリは勘弁してほしい

 

「なんだい、アンタ結構いけるじゃない」

 

どこをどう見たらそんな感想がでてくるのか

まったく……俺は俺で何してんだか

 

塵くらいの希望をかけて相手がただの泥棒だという方に賭けたいけど

きっとそんな優しそうな存在ではなさそうだ

 

簡単な話。ミアと同じタイプの住人であっただけのこと

 

だとしたら俺に勝ち目なんざ万が一にもありはしなかったのに

なぜこんなことをしてしまったのか

 

緊迫した空気の中ほのかな血の匂いを感じ取る

きっとこれが原因だったのだ、ということにしておく

 

いったい何処から取り出したのかナイフが冷たい

それが伝染するように俺のカラダから体温が下がっていく

 

これは本格的にやばいかなぁ

 

昨日生き残れたからといって今日も生き残れるなんて保証はどこにもない、だれかが俺の生命を担保してくれるわけでもなし

ミアの時はなんとなく子供だからという心成しの余裕があったけど今回はちがう。相手は大人で強烈なフェロモンに混じって血の匂いがする、だとしたらもう余裕なんていう余暇は粉みじんもありはしない

 

「あんたやっぱり……」

 

相手方の目が少し揺れるが、それは決して油断のそれではない

 

「な、んだよ……」

「死んだ弟に……」

 

どんな非常識な会話だよ

人の顔つかまえて死んだ弟に……とか

 

「に、似てんのか?」 

「いや全然似てない」

 

俺はずっこけようとしたがそれすらも相手によって阻止される

 

似てないのかよ

じゃぁ何を聞こうとしたんだよ

 

そんなおしゃべりも作戦だったのか

気がつけば俺はベッドに横たわさせられていた

 

「ッっ!」

 

背中がきしむ

 

そうして瞬時に俺の右手と致命的な首を同時に抑えられる

ちなみに首にはもちろんナイフが添えられている

 

よくわからないがきっと足払いでもされたのだろう、かかとが痛い

 

今日の晩飯はこのままでは俺になりそうだ

なんて冗談を言っている場合じゃない

 

「こ、降参だ……んで? 何が聞きたいんだ……」

 

俺は声を震えさせながらそう聞いた

 

腰さえ万全なら本気出せたのになんて

 

毒吐きを言おうとしてやめる、なんだかミアのせいにしているみたいで嫌だったからだ



「あっはっはっは! アンタ声震えてんじゃないか」

「うっせ、ふ、ふるえてねぇ」

「はぁ……似てるよ、やっぱり」

 

なんの真似か頬を撫でてくる

 

さっきまで都合よく、ミアにブレスレットもらっといてよかったなとか思っていたけど

よくよく考えたらこんな危ないもん見せなければこんな結末にはならなかったのではないかと思わなくもない

 

「子供を痛めつける趣味はないんでね」

 

そういってナイフを輝かせて腰にあるホルダーに仕舞ってくれる

殺人がいつでも出来る四つん這いから俺の身体に馬乗りに乗ってくる

 

どちらにしたってピンチなのに違いはない

 

「……」

「なんだい?」

 

俺はとりあえず相手の目から体に視線をうつすことにする

 

適度に引き締まった身体と抜群のプロポーション、肌はやや白めであんまり外とかで遊ばないのかなとか思ったり

 

腰にはポシェットと、ホルダーがぶら下がってる……

どう考えても現代の物ではない

 

ということはやはり

 

「……」

「もしかして欲情しちまったかい?」

 

思考が止まる

 

「……」

「なぁーに赤くなっちゃってんのさ! このこのぉ! さてはお前さん童貞だなぁー」

 

鋭い爪で何度か頬を刺される、いてぇ




意識しないようにしていたがこのお姉さんまぁまぁな美形だ

それに服装が特になんか、ビキニアーマーみたいな恰好しているからより一層困る

 

だから今俺は焦っている訳なのだが

 

今思い返すとあれは本能的な恐怖で動いたわけではなく

ちょっと恥ずかしいけど性的な畏怖で動いてしまったのではないかと俺は予想する

 

例えるならば、肉食動物に睨まれた草食動物みたいな

 

あちらは無意識無条件で威圧を放ってくるけどこっちはそれに対しただ助かりたいと思っただけなんだとしたら今回も俺の所為じゃないと思いたい……

 

なんであれ人に武器を突きつけるなんて行為は最低であるが

もちろん自分に対して言っているのであるが

 

「いや、だから……目的は?」

「はぁん? もくてきぃ?」

 

何とか俺は話題をそらす

無垢な少年の童貞いじりは心に響くからやめていただきたい

 

「そんなもんないさね、ここはどこだい?」

「えーー……日本で、伊里ヶ丘……です」

「あぁ、そうかい」

 

いやこの人何しにここへ来たんだ

 

「えっと、あそこから来られたの?」

 

クローゼットを指差す

 

「んぁ? そうそう、階層踏んでたら飛ばされてねぇ」

 

「フリフティーバットの群れに襲われて危うく死ぬところだったんだよぉ」と豪胆する彼女

ちょっとなにいってんのかわからない

 

「元へは、帰れるんですか?」

「んー? さぁ、知らないさね」

 

おいおいおい、勘弁してくれよ

 

「えー、試したほうがいいじゃないですか」

「なんだい、邪険にするのかい? 悲しいじゃないか」

 

そういいながら腰を前後左右に揺らす彼女

 

「ちょちょちぃ! やめさい」

「なんでさぁー?」

 

いやらしく聞いてくる赤茶髪

 

「ちくしょう……俺に力があれば」

「そんなかっこいいセリフをこんなとこで吐くのはやめてくれるかい」

 

しょうがないねーといいながら姉さんは俺からどいてくれる

 

とそこで外の景色が目に入ったらしい

窓の近くへ駆け寄っていく

 

「おおおお!! なんだいここは? 地下街かい? それにしては明るいね」

 

あそうですか

 

とりあえず流しておこうとしたけど俺はなんとなく嫌な予感がして彼女を引き留める

 

「いやちょっと待って! まさかこっから出ていこうとしていないよね?」

 

念のため窓を急いで開ける

赤茶髪は跳躍の姿勢、とぶ一歩前で止めてくれる

 

「なんだい、後髪を引くなんて通じゃないね...流石に初対面でまぐわうほど安い女じゃないよ?」

 

後半は聞かなかったことにする

理解不能

 

え、ていうかがっかりしている自分がいる。

 

「その、その、その格好で行かれるんですか?」

 

髪の毛と同じ色のビキニ―アーマーのような防具

別に行くのは自由だけど、そのやはりモラルというか

 

というか俺の部屋の窓から痴女が飛び出してくるなんて想像したくもない

誰かに見られたらどうするんだ

 

「童貞ちゃんには刺激がつよいのかい?」

 

比較的優しい声で神経を逆なでしてくる赤茶髪

 

「ぐっ、童貞いうな! ……その、服着てよ」

「えー、これがアタシのスタイルなんだけどねー」

 

いや知らんがな

それは立派なわいせつ罪にあたるんだからなんとかしてよ

 

警察に捕まっても俺は知らんよ

というかその場合職務を全うしてくれている善良な一市民がひどい目に遭わされるかも……

 

最悪の想定をしたところで俺は必死に説得する

 

「あの! こ、困るんですそんな姿で出歩かれると!」

「いいじゃないか減るもんじゃないし」

 

いや人類が減るかもしれない……

違う違うそうじゃねぇや

 

このお姉さんが簡単に人を殺すような人に見えないけど

だからといって――

 

「いや、僕らが気にするんですって」

「アタシは気にしないよ」

 

俺はそのあと必死で説得するも聞き入れてくれない

この天然痴女めぇ

 

しょうがない、嘘も方便という奴だ

最後の手段にでよう

 

「宗教なんですよ」

「ぁん?」

「この外には厚着族といって二枚以上の上着を常備着ている民族なんです。なんでもその昔長袖の神が活躍したそうでみんなその神様を信仰してらっしゃるんですね。なかには結構過激な人たちもいて、強硬手段にでたり少々手荒い歓迎を受けたりします。だから長袖を着ていないと集団リンチに遭いますよ」

 

なるべく早口で、それも何も考えないように自信満々に言い放つ

反応やいかに?

 

「……そいつは恐ろしいねぇ」

「……そりゃもう」

 

折れた……か?

 

「はぁ……しょうがない、伝承はともかくアンタのその熱意に免じて厚着を着てやるよ」

 

よっし!! よっし!! あっぶねぇ、信じてはいないようだが、なんとかなった

 

彼女はもう一度ためいきを吐く

どんだけ服着るの嫌なんだよ

 

「ただし、なんかの罠だったら、ただじゃおかないからねー」

 

そういって釘を刺してくる姉さん

んなわけねぇだろ、純粋な善意だわアホが

 

俺は小走りで彼女が出てきたクローゼットへ、そこから緑色のモッズコートを取り出す……

 

『もわんもわんもわん』

 

そこでとんでもないものを見かける

奥行きのあるくらい空間が右往左往していた……形容しがたいやつ

 

え? クローゼットの奥ってこんなにダークファンタジーな感じだっけ?

 

…………パタン

 

「見なかったことにしよう……」

 

俺は首を振ってすべてをフィクションとする

 

オールフィクション

 

「なんだい? ないのかい」

 

さも残念そうな声を出すレディ

 

「いやある! あるから」

 

そうはいかない、意地でも着させてやる

そうしておれは彼女にコートを渡す

血の匂いが付くとかはこの際気にしない

 

「なんだいこれ? これじゃぁ襲われたらひとたまりもないじゃないか」

 

アンタにかなう日本人なんていないよきっと

それにもともと防御力ゼロが一くらいに増えるんだから文句いうなや

 

着るのに手こずる様子

とりあえず後ろから着るのを助ける

 

「アンタ……お節介なんだね」

「うっせ」

 

いやはや……これはこれは

 

もともと着衣が好きだったって言うのもあるけど

コートの下からのぞく生足はなかなか目を見張るものがありますね

 

もともと足もお綺麗なようですし

節操のない冒涜的な露出より俺はこういった適度なエロの方が好きだなぁ

 

「もしかしてただ、着せたかっただけとかじゃないだろうね?」

 

ゆっくりと首を横に振って否定する

 

「違うよ」

「ふーん、そうかい……」

 

「首を横に振った理由はよくわからないけど」と言いながらコートの裾に手をかける赤茶髪

 

「え、なにすんの」

 

裾を上げたり下げたりし始める彼女

その謎の艶美さに俺は目を逸らす

 

「いやなんか落ち着かなくて……って、何照れてんだい? さっきよりも露出は減っただろうに」

 

どうやら露出という概念はあるらしい

 

「いや、そうゆうもんなんだ」

「ふーん、アンタはこういうのが好きなんだねぇ、物好きなこって」

 

そういって片足を上げて下に着ているものをチラチラ見せてくる

 

「おおおい、からかうのもいい加減にしろやっ、もう行ってしまえ」

「あっははっは! 照れてる照れてる」

 

俺はその態度に何を感じたのか財布と携帯をもって玄関へ向かう

おっと、弁当箱忘れるところだった

 

「怒ったのかい?」という言葉に対し俺は無視という肯定を差し出す

「なんだい小さい男だねぇ」

 

そんなどんぴしゃなことを背中越しに言われる

 

うぐぅ

 

あまりに図星過ぎてなにも言えない

 

「でもまぁ、ありがとよ」

 

と急にそんな優しい言葉をかけられる俺

振り向かずに俺も答える

 

「いいよ別に。でも何があるかわからないから気をつけるといい」

「なんだい心配してくれているのかい?」

「まぁ」

 

ここは一応地元だからな、心配もするさ

友人が首元にナイフを突きつけられるなんて夢でも思いたくもない

 

「フフっ、ありがと」

 

綺麗な声だった……

つい俺は振り向く

 

「お、目があった」

 

したり顔でそういってくる

 

瞬時に俺は向き直る

なんかめっちゃ馬鹿にされた気がする

 

「日が暮れる頃には帰ってくるから……なんかあったら勝手にすればいいっ」

「あー、自己責任な。ギルドの掟さね」

 

靴を履いていると「地下にも太陽は存在するんだねぇ」と呟きが風邪に流れて聞こえてくる

 

むしろ俺は、アンタんところの世界にも太陽は存在するんだねぇとか思いながら

 

玄関のドアを閉める時に見た後ろ姿は、窓からの惚れ惚れするくらいの綺麗な跳躍であった

 

これで着地時に骨とか折ってたら笑う

絶対に助けないとこ





「なんか昔を思い出したな……」



地元の人とはうまく話せないけど、なぜか変態や変人とは上手く話せるな……

 

 

*********













明日学校休もうかなぁとか思いながらアパートの階段を上がる



帰ってくるとコートを着た痴女が体育すわりでいじけていた

これは予想外でした......

 

いや、ある意味予想以上というべきか、

 

「え、どうしたの?」

 

缶コヒー持ってるし

誰からぱくったんだソレ……

 

「遅いじゃないか! そんで恐いし寒い!」

 

そういって抱きついてくるお姉さん

!あたってるんですけど、という驚きよりもその身体の冷たさに俺は物思う

 

ざまぁみろ俺にナイフ向けた罰だ...…なんて思わない

 

「あ、ごめん、なんかすいません」

 

俺は遅くなった? ことに対して謝礼をする

 

「えぇ? 急にしおらしくされると今のコンディションじゃぁコロッといっちまうよー」

 

「ぅぅぅ」と呻きながらスリスリと身体を寄せてくる赤茶髪

とりあえずスルー

 

鍵を開けて中へ入る

中を見ると窓は開きっぱなしだった

 

「え? なんで窓から入らなかったの」

 

俺は不思議に思い質問する

 

「なぜか入れなかったんだよ......こう、見えない壁? みたいなのに邪魔されて」

 

そういえば吸血鬼もおんなじようなこと言っていたな

二人とも壁を破壊してまで入ろうとしないだけありがたい

 

室内で魔法は発動できなかったし、魔除けの加護と侵入妨害結界でも張っているのかい? と、ついで聞かれたが頭目見当もつかない

 

「わっかんないっす」

 

そういって中に入る

 

「おぉ! アンタといると入れるよ」

 

嬉しそうにちょっとだけ飛び跳ねられる、胸があたる

 

まさかとは思うが玄関からなら入れたとかじゃないよね?

ともあれ最近はあったかかったのに、寒くなってきたな......

 

急な温度変化は勘弁していただきたい

 

壁に貼り付けてある暖房のリモコンをオンにする

 

「今あったかくしますんで」

「へぇ、魔力もないのにどうなってんだい」

「僕に聞かれてもよくわかんないっす」

「ふぅーん」

 

機械の仕組みなんてよくわかんないまま使ってる

 

ところで

 

「いつまでくっついているつもりですか」

「えー、いいじゃないかぃ、寒いんだよぉ」

「もうあったかくなるんで、離れてよ」

「それにちょっと心細かったしさ。聞いてくれよ、ここにいる人たちみんなアタシのことジロジロ見てくるんだよ!」

 

俺は本当ならここで、長ズボン履いてないから厚着族に警戒されたんですよ、とか言わなければならないところをそんな設定すっかり忘れてボロがでてしまう

 

「あそうですか......魅力的に映ったのでは?」

 

実際俺もその綺麗な脚線美見ちゃいますし

 

「んんっ! 嬉しいこといってくれるじゃないか!」

 

ハグした状態から頭を結構乱暴に撫でられる俺

ハゲるからやめてくれ

 

「いやいや、俺は思ってないっすよ? 街のみんながそう思ったんじゃないかって」

「誘ってるのかい? いいよぉ、アンタとなら悪い気しないよっ」

 

話聞いているのか

 

「誘ってないし! いいから離れてくださいって」

「照れるな照れるな」

 

さらに拘束を強めてくる姉さん

とりあえず話題を変えるか

 

「あ......あなたメシ、食ってきます?」

「えぇ? いいのかい」

「えぇ、男料理ですけど」

「そんな、食えるんだったらなんでもいいよ!」

 

離してくれる気はさらさらないようで

 

「ちょそろそろーー」

「アタシは......メディナ。名前、なんて言うんだい?」

 

意外と可愛らしい名前をしている姉さん

 

名前...?

名前か

 

「イツハ」

「イツハ? 変わった名前だね」

「アンタもそれ言うんだな...」

「やっぱ言われるのかい」

「いや、一人にしか言われたことないけど

「へぇそうかい?」

 

やっと離してくれるメディナさん

 

俺はポットに水を入れに行って

御茶でもいれようかしたところ

 

唐突に地面に押し倒される

もちろん姉さんの手によって

 

「え?」

 

腰が痛い

 

「いや……別にするつもりはなかったんだけどね」

 

メディナの顔が至近距離に展開される

俺は仰向けで、彼女は今朝と同様獲物を狩るような四つん這い

 

どちらにせよピンチなようだ

 

「……」

「どうしたんだい、随分驚いているようだけど」

「……え? いやそりゃ驚くよ」

「なんでさ? そんだけ無防備でいられたらこっちもその気になるじゃないか」

 

どういう理屈だ

 

「朝、会ったときは、そんな気はないみたいなこといってませんでしたっけ?」

「おもいのほか好みだっただけさ……イツハ」

 

俺は感涙にむせび泣きそうになる

そんなことを言ってくれる女性がいてくれるとは

 

「えぇぇ、ありがとう……ございます」



「姉さん佳い匂いがします」

 

ボソとつぶやいた、そんな発言がどうやら地雷だったらしい

 

姉さんは俊敏なチーターのように俺から身を引くと、すぐに後ろを振り返る

 

「か、帰るっ」

 

チラリと見た横顔はうっすらと朱に染まっていた

もう日は暮れたので言い訳はできない

 

「え?」

 

彼女もひとりの女性だったと言うことか

それともそれがたまたまコンプレックスだったのか

 

どちらにせよ俺はきっとサイテー

悲しんでいるかはどうかは知らないが

 

まず不快にさせたのはまずもって間違いないだろう

 

そこからゆっくりクローゼットへと向かい、中へ消えていくメディナ

 

ごめんといおうとしたけど躊躇う

なにをかけたらいいのかわからず躊躇

 

気が付けばまた俺は一人であった

いやまぁいつも通りなのであるが

 

耳鳴りがする

 

「俺はいったいなにをしているのか……」

 

まったくなにが勘にふれてしまったのか

何がいけなかったのか疑問はつきないけど

 

こんなときこそ俺は優雅にお茶を入れて

午後の紅茶のひと時を楽しむのであった


惜しいことをいたとか思っていない。

落ち着いてからクローゼットを見てみたけどやはり誰もいない

それよか人が一人いた気配すらまったく感じさせない

黒いもやも俺の妄想だったみたいに消え失せている

 

いよいよ俺は頭おかしいんじゃないかと思い始めたところで



部屋には微かな血の香りと

強烈なお姉さんのフェロモンのにおいだけが残っていることに気付く

 

「どうか俺が正常であると願う」




一人分の飯を作って、一人でちゃぶ台で食べる俺なのであった




11 ミア・フォーマット

 

 

 

 

 

 

 

錆びたアパートの階段を登っていく

確か大家さんがそろそろペンキ塗りたてるって言っていたな

 

「人のことは大切に想わないが、アパートの事は大切に想う」のが大家さんだ」

 

クソみたいな名言を心の中で生みながら俺は鍵を差し込み玄関を開ける

 

「ただいまー」

 

 

f:id:illustyuuki:20200605204201j:plain

 

 

その入ってきた景色に俺は戦慄を受ける

 

めっちゃ部屋散らかされている

泥棒か……と周りを警戒し息をひそめたところである物体が目に留まる

お菓子とかひどい散乱ぶりだ、じゃなくて……

 

「「少女が一人、俺のベットで勝手に寝てやがる」」

 

貧相な仮説を立てるのであればこの惨憺たる部屋の荒れ具合も全てこの少女のせいにしてもまず大丈夫であろう

 

「はぁー」

 

もしかするとなんかの組織の罠かもしれないなんて中二病心と一抹の不安を感じつつ俺は部屋を片付けていく

 

もちろん片付けにはこの少女という問題の片づけも含まれている

できれば関わりたくないんですけどこんな形容もしがたい状態の女の子を

それは奇怪な格好をしていた

奇妙というよりはこの現代では似つかわしくないような恰好

身長は140センチといったところか

その体躯に水色を基準としたタイトな服にベルトやらバンドやらよくわからないものが色々と巻き付いている

 

TMの人って言ったら双方に失礼な気がするけど

おれが真っ先に思いついたのはそんな感想であった

 

といいつつ

現実逃避はやめて彼女を起こす

 

「おーーい、おきろー」

 

軽く肩をトントンと叩く

決して強くやっていないし、その位置は適切だったと言い訳させてもらう

 

「んぅ……っは!」

 

少女は目覚めがいい方であった

ただその事象が吉なのか凶であるのかは俺にはさっぱりわからない

例え遅かったとしても早かったとしても俺の未来は変えられないものだと思うから

というか別に寝起きなんてどうでもよかったのかもしれない

 

この場合は相手が悪かったとしか言いようがない

自分を棚に上げて相手のせいにするのは俺の専売特許であるが

今回ばかりは「俺は悪くねぇ」と声を大にして主張させていただきたい

 

「ぐhhっはぁ!!」

 

次の瞬間とかじゃない

気が付いたら壁に叩きつけられていた

 

あんまり痛みが無いのは、決して重傷だから、ではないからだと願う

なんとか酸素を探して吸い込む「っはぁあっ」

 

「残念だったね! ミアに手を出そうなんざ百億光年早いんだ!」

「それ……時間じゃなくて距離ぃ……」

 

その発言にも驚いたが

 

次に驚くのは彼女から、みそら色の幕がじんわりと張られていくことだ

その範囲は次第に広まり、俺の一歩手前までその色は染まる

 

常識的に考えれば、バリア張られたってことかなぁ……

普通にショックなんだけど

警戒されないために肩を、それもなるたけ優しく叩いたのに

こんな仕打ちってないよ

 

なんなんだ

 

「きて! ミアの子たち!」

 

ついでに空間を切り裂きながら雷を発生させ、銃みたいなものをいくつも出現させていく

 

ジバン!ジバン!ジバンと音を立てながら現れたのは3丁、俺はよくしらねぇけど言葉を借りるならSVDとリボルバー0式、そしてふつうのAKっぽいかたちをしたやつが三つ

 

俺の部屋で

 

銃口はもちろんすべてがどういう理屈か宙を浮きながらこちらを向いている

しかして、俺は殺されるかもしれない可能性を秘めている相手に向かってやたら冷静であった

 

いや冷静というには語弊があるな、その説は興奮寝覚めぬ様子であった

今思えば現実味のない状況に脳がマヒしていたのであろう

冷静だったらこんな能天気な発言は絶対にしない

 

あるいは生存本能の、御業がだせる能力か

 

「うわぁ、カッ……いいじゃんか」

 

その言葉がこの雰囲気の最後であった

 

「え?」

 

相手方の表情が一瞬にして変わる

 

「……あ、ごめんなさい」

 

やっと我に返る俺

ていうか不法侵入者に対してなんで俺が犯罪者みたいな扱いされないかんの?

とか文句を言っている場合ではない

 

「いま、ミアの子共達をかっこいいって……」

「子供たち? あ、うん、いいと思う……」

 

いやだってガシャンやで? かっこいいに決まってる

変形と異界とトランスフォームとガンソードはいくつになっても魅了止まないものだ

 

「じゃぁじゃぁ、こういうのは!」

 

いいながら手を上にあげて

何もない手の上から空間を切り裂いてデッカイ剣みたいなのが雷を放出しながら出てくる、銃の三丁は静かに粒子となって消えていった、どういう原理やねん

 

「うはー、かっこいぃ」

「ホント!?」

 

少女はさっきまでの憎悪はどこへ行ったのか剣をカチンとキャッチすると得意げに構える

 

「あ、ごめん、部屋の物は傷つけないでね……」

「えー、わかった……」

 

しぶしぶといった様子で受諾してくれる少女

ごめんね急に冷めたことを言って

本当に大家さん恐いんだよ

 

「え、これも浮かせられるの?」

 

先ほど瞬時に出現したガン(銃)同様

目の前の大剣も浮遊させることができるらしいようだ

 

「そーだよ! これくらいのものを浮かせられるのはミアくらいなんだよ!」

「いやマジですげぇーな」

 

これがたとえ子供特有のみえっぱりだったとしても俺にはそれを確認する方法は無いから素直に驚くほかない

 

「えっへん!」

 

得意げな様子で……

とりあえず助かったぁ……ということでいいんだよね

 

「……君は、それでどうしてここへ?」

「あーそうだった! じゃなくて」

 

「でも違うよ!」といって『キッ』と睨まれる

銃も再び出現し、全て俺の方へ向く

 

地雷を踏んだのかもしれない

せっかく一度はよい塩梅にまで抑えれたのに何をやっているのか俺

 

ひやぁ……改めてこの恐怖を体感

さっきは麻ひしていて全然感じなかったけど、これ本当に怖いやつやん

 

本当に弾丸や電磁が出るかは関係ないものなのだ

目の前で口を向けられている

それだけで人間に刻まれている恐怖心という者は震え上がるのである

 

「ミア・デルタ・エキスマキナ」

「え?」

 

とうとう魔法系か?

 

「名前! ミア! 君じゃない」

 

ああぁ、そういうパターンか……

 

「呼び捨てでいいのかな?」

「うん」

「ミアね」

「はい!」

 

ここでやっと銃口が下がる

ウィゥといって一斉に五個以上あるガン(銃)が下がるのは見所である

命の危機に面していなかったらの話であるが

 

一命を取り留めたと思っていいのかな

拝啓どこにいるかわからない義兄弟達よ、俺はなんとか生き残ったぞ

 

もうしゃべらないとこ

口和災いのもとということである

 

「お兄ちゃんは?」

「っへ?」

 

素っ頓狂な声が出た

 

「名前!」

「あぁ! イツハ、イツハ・イガワだよ!」

「イツハ! イツハ! 変な名前ー!」

 

ミアは随分しっくりくる名前だね

 

まったく

銃と剣さへ所持していなかったら普通の可愛い幼女だというのに

 

やめよやめよ

こんなこと思っているとまた殺されちまう

 

、、、

 

それから15分と喋ってみると、ミアちゃんは意外と話の分かる子であった

いやマジでこれが普通だと思ってはいけない

世の中何があるのかわからないのだから

こんな些細なことに関しても感謝しておかなければ……

 

「あざっす……」

 

ともあれ今は彼女について



「ほんとうにごめんなさーいっ」

 

この謝罪は早とちりして俺をぶっ飛ばして背中を痛めさせた件についてと

 

「いや、別にいけど」

 

まぁよくはないんだけど

それは流石に大人げない

 

ポテチやチョコレートを勝手に食べてた件について

 

とりあえずあらぬ誤解は解けたということで満足しておく

 

「ここはイツハのお家だったんだね、てっきり敵かと思って」

「あぁ、そうですか……」

「それにお菓子も結構食べちゃって」

 

結構じゃなくて全部じゃね? 

もともと多くはなかったからいいけど

 

「ちゃんと歯ぁみがけよ」

「うん? 忘れずにするー!」

 

今では銃も拳銃も剣も全て仕舞ってもらって俺たちはちゃぶ台越しにのんびりと会話している

彼女はなんか違う世界の人間らしかった

聞いた感じだとここよりももっと文明が発展しているらしい世界からきたとか…

 

ただあまり豊かではないそうだ

そのサブ要素として食文化にはあまり力は入れらていないらしく、この通り宝石のように写ったであろうお菓子たちを平らげてしまった様子

 

いわく「この袋みたいなの開けるの難しかったー」らしい

 

そういうところは年相応……

そういえばミアちゃんはいったい幾つなんだろう、年齢はまだ聞いていないな

というか聞いても殺されないよな?

レディに年齢を聞くのは失礼とよく聞きするが……

 

ちなみにお菓子が食料品であるという事実は彼女が持っているというメガネみたいなので調べたらしい

そして俺たちの間で言葉がなんなく交せれるのは彼女が首につけている機械のおかげといっていた

 

「ミアちゃんて聞かれたら困ることって、あったりする?」

「ちゃん?」

「うわぁあごめんごめん、愛称みたいなもの」

「えー、それ気に入った! もっと呼んでー」

 

あっぶねぇ、勢い余って『ちゃん』付けしちゃったよ

時と場合によれば怒られてたかもわからんのに

 

もっと慎重にいこうぜ俺

 

「あぁ、それで――」

「聞かれてこまることなんてないよ。お菓子? 食べちゃったし」

 

ん、お菓子食べちゃった代わりになんでもこたえるという事?

交換条件ということでいいのか

しかし本当に答えたくないことがあったら答えたくないといってもらいたいものだ

さっきから一応対等でいようとはしているが、武器が脳裏にチラつく

 

「じゃぁいくつか聞いてもいい?」

「なんでも聞いてー!」

「違う違う、歳がいくつか教えて?」

「年齢ー?」

 

俺は頷く

ミアは手を前に突き出して指を折る

どうやら指で年齢を表現してくれるようだ

 

そういえば指は十本あるんだなぁちゃんとなんて思いながら

 

そしてこれで俺と同い年だったら笑う

しかしそんなことはなかった

なぜなら彼女が示した数字を俺は

 

理解できなかったからである

 

「え? なにそれ二歳?」

 

ミアは右手を前に突出し中指と人差し指を立てている

つまり俺から見て右側の手

 

どう考えてもピースサインにしか見えない

 

「あはははは!! 二歳なわけないじゃん」

 

小さな子特有の無邪気な笑顔を向けてくるミア

今はそれがものすぉい煽られているように感じる

 

「え? え、わからない」

 

「数の数え方もわからないのーぉ」とニヤニヤのミア

「やかましいわ」と俺は心の中で呟く

そう心の中で

 

奇跡的なひらめきが起きる(あは体験)

ああ! これって噂の一進数ってやつか!

あ間違えた二進数か

 

「ちょっとかしてみてー!」

 

彼女はこちらによってきて俺の手を取って数の数え方を手で教えてくれる

 

その行為に俺は不覚にもドキッとする

もちろん私はロリコンではないので

そういった意味でドキッとしたわけじゃない

 

たださっきの背中の痛みが未だ現役で響いているだけなんだきっとそうなんだ。

 

今はまあそんな痛くはないけど記憶が

 

「えっと……」

「それでこれが十で、これが十一、でミアが十二!」

 

全部指のおりかたから数え方まで本当に全て教えてもらったのにほとんど分からなかった

 

分かったのは薬指と中指を同時に立てようとすると痛いという事と

四は中指を立てればいいという事だけ

 

「えっと……」

「わかった?」

「うん……」

「よかった!」

 

つい嘘をついてしまった

いたいけな少女に嘘をついてしまった

きっとこの罪はデカイ

 

するとミアの首元が少しだけバイブレーションする

 

「なにいまの?」

「イルピッツァの充電が無くなってきたみたい」

 

なにそれ、おいしいの?

 

「えっと……そうなんだ」

「あーあー、やっぱりイルピッツァよりイルベータの方がよかったかもー」

「えっと……そうなんだ」

「そういえばイツハ、イルピッツァとか持っていないよね」

「えっと……え? あぁ、うん」

「どっかにやっちゃったのー?」

「え? あ、うぅん」?

「もぅ、ちゃんと聞いててよ」

「あぁ、すんません」

 

怒られた

 

「今度イツハように持ってくるねぇー! 充電器ある?」

「いやいらないよ……充電器?」

 

そんな急に言われても、スマホのとかでいいのかな?

 

「そんなんじゃだめだよ! もっと大きいの!」

 

根本的には間違っていないのか大きさを求められる

こういうのって製品によって違うんじゃないのかなぁ

何が違うのかって聞かれても困るけど

 

俺はしぶしぶ学校から支給された使っていないPCを引っ張り出してくる

宝の持ち腐れだよ

 

「これは……無理だよね?」

 

ダメもとで聞いてみる

 

「あーー、それ見せて!」

これでええんかい、なんとかなるのかもしれない。いやでも何もない空間からガン出してくるような文明だからなぁ

 

彼女は胡坐をかいてそのパソコンを、懐から取り出したメガネで何秒か見つめた後に解体し始める

 

「あーあー」

 

いや一言、ことわり言えよ。教授に百怒られる。「解体するね!」とかないわけ。

 

どうせ使ってないからいいけど……

 

「……どう?」

「……」

「みやっー?」

 

あら集中モードに入っちゃったみたい

職人さんみたいだな

 

俺集中して人の声が聞こえなくなる人初めて見たよ

今ならその綺麗な体とかさわっても気づかれなかったりして

 

……もちろんやらんですけど

 

やることもないので席をたって冷蔵庫の中身を見に行こうとしたところで

 

「古ーーーーーい!」

 

と楽しそうな声がひびくのであった

 

「あらそう」

 

冷蔵庫の中を確認して今日の献立を考える

そういえばお菓子は損害大だったけど冷蔵庫の中は無傷だったんだな

 

「イツハこれ面白いね! 変な数字が使われている!」

「あーそうなのね?」

「それにいつの時代のイルなのー!」

 

とりあえず嬉しそうだからいいか

俺はあんまり大きな声はださないでねーという趣旨だけ伝えておく

 

「ミアちゃんごはん食べていくよね?」

「えええーー、いいの??」

「いいよー」

「わーーい!」

 

知らん人の家でご飯食べちゃいけないという常識はこのさいもう遅しであろう

あとは男の料理が果たしてミアちゃんのお口に合うかどうかだけ

 

「あちゃーコンミがない……」

 

俺はミアちゃんの方を見る

 

「……」

「ミアちゃん!」

「……うえ?」

 

よかった、集中する前だった

 

「ちょっと出かけてくるけど……家開けていいかな?」

「うーん!」

「よかった」

 

まぁあの武器の様々があれば襲われても心配はないんだろうけど

やっぱり不安にはなる

 

あるいは加害者の心配かこの場合

 

「あー」とミアちゃんが俺を引き留める

 

「イツハそういえば武器持っていないよねー!」

「ううぇ? まぁ、はい」

「危ないよ! だからミアのイル、試作品だけど一個あげる」

「え、マジで?」

 

正直かっこいいから一個もらえるなら嬉しい

 

「うん! ほんとほんと!」

「マジかーー! 超嬉しい」

「うん! ミアも嬉しい」

 

そういって取り出してきたのがエメラルド色のブレスレットだった

俺は盛大にずっこける

 

いや……嬉しいけど、も

 

ミアはそれを俺にはめようとする

 

「ちょっと待って……それってなんか電気流れる奴?」

「んー? 体にはプラグは刺さないよー」

「大丈夫なの?」

「ミアがやった時は大丈夫だったけど……」

 

そういってもう一度はめてくれる

 

「ほらー!」

「あぁ、なら大丈夫か」

 

そういってミアが再びはめようとしてくれる

今度は俺もおとなしく従う

 

ビビっていたのは正直なところだがやってみるとなんてことはない

 

「はい! できた」

「おおおお!」

 

ただのブレスレットだ

 

「22出して」

 

「え?」

 

「もう察し悪い」

 

小指と人差し指と中指を突き出すように言われる。

 

「んーこうかなー?」

 

何も考えずにやったらバチィィンと電撃が手にまとう。うわぁぁぁあ!! 

 

と反射的によろめいたが痛くはなかった。

 

「それで中指を引いたらバレットが出るからね! なくなったらこまめに充電してよ!」

 

そういって自分の作業に戻っていくミア

いやいやいや……投げっぱなしかよ

まだ俺は何もわかっちゃいないんだが

 

「……」

「ミアさんー」

「……」

 

返事が無い

まあいいや、とりあえず怪我もないしいいでしょう

そういって現実逃避気味に俺は鍵を閉めて部屋を後にする

 

階段を下りて近くのドラッグストアーへ、コンミ一個ならそこで十分だ

途中空き地でさっきのを展開してみたらめっちゃカッコよかった。

 

右手だけスーパーなんとか人みたい。

 

小指人差し指と中指を突き出して薬指と親指をたたむ

 

そうするとみそら色のひし形のカタチをした何かが電撃と共に手の甲に出現する

 

かっこいい

 

これは手をそのポーズにしている時だけ出現する

その間にミアの『中指を引いたらバレットが出てくる発言を思い出し』ほんの出来心で塀のブロックに向かって中指を引いてみたら

 

『ドバァァン!』と音がしたら矛先に一センチくらいの穴が開いたので俺はすぐにそこから去った、目撃者は……多分いないと思う

 

というすんごい希望的観測

マジで人に打ったら顔面は軽く抉れると思った

 

エッグ…

 

買い物を終えると俺は急いで家まで帰った

理由はよくわからないけどちょっと塀を開けたという罪悪感とミアがお腹をすかせていないかという事と純粋に彼女のことが心配だったかrである

 

「ただいまー」

 

鍵を開けた後いきよいよくドアを開ける

思い返せば誰かが家にいる事なんてミノルをのぞけば稀である

俺は少し新鮮な気持ちになる

 

けど部屋に入るとミアはいなかった

 

部屋の隅で胡坐をかいていたりしないかなとか思ったけどやっぱりいない

急に不安になってきたところでちゃぶ台の上を見下げる

 

一枚の電子版が置いてあった

 

なんとなく俺はそれが意味のあるものだと思ってしまって色々と角度を変えて方向を見てみたがやはりなにも起きない

 

「……」

 

柄にもなく寂しくなってしまう俺

すると

 

『やっほー! イツハー』

「おお! ミア!」

『この世界じゃー全然充電できないから元の世界にもどるね―』

「……電話っていうわけじゃないのか?」

『きっとすぐ戻ってくると思うから心配しないでねーー!』

「なんだ、そうなのか」

『この起動の仕方で再生されたらこの言葉をおくるけどー』

「?」

『イツハ本当にマキナ音痴なんだねーー!』

「……」

 

最後の台詞はよくわかんないけど馬鹿にされたことだけは分かるから不思議だ

あんにゃろう帰ってきたら承知しないぞぅ

と意気込みつつも俺はきっとあの子にはなにも悪いことできないんだろうなとか思いながら食事の準備に取り掛かるのであった

 

結論で言えばミアは帰ってこなかった

その日は珍しく寝つきが悪かった

 

 

 

 

 

 

 

 

9 勇者・エリオット

 

 

 

「おい、そこのお前」

 

 

f:id:illustyuuki:20200605200132j:plain

 

 

振り向くとそこには見るからに勇者の風態をした少年がいた。身長は150㎝と小柄で、寒くもないのに顔にターバンを巻いている。寒がりなのだろうか。

 

うわー絶対異世界系の人だ。なんか背中に剣まで背負っているし……捕まるぞ。

 

「はい」

 

「飯をくれ」

 

「はい」

 

甘えるなとかダメにするからとかそんなことはどうでもいい。俺はゆとりなんだ。争い事など万が一にもしやしない。

 

俺は持っていた食べさしのすき焼きおにぎりを渡す。

 

「では」

 

「おい待て」

 

カラマレタ……

 

「は、はあい」

 

話を聞いたところどうやら彼は異世界からきたとのこと。右も左もわからないからとりあえずこの世界のことを教えてほしいと言われた。

 

俺はめんどくさかったのでテルオに連絡して彼を案内するように頼んだ。

 

「困っている友人がいるから案内してくれない?」

 

テルオの返事は至極明るいものであった。

 

「んおあ、いいよ!!」

 

嘘だろ。普通もっと警戒しろよ。

 

「ありがとう」

 

「あぁいいぜ、友達だしな! そのかわり今度遊びにいこうぜー」

 

嗚呼、真っ当で真面目で大手を上げて喜ぶべき友人の言葉であるはずなのに俺はどうしてもそれを快く受け入れられなかった。そんな俺はクズか相当なコミュ障

 

「まぁ、行きましょう是非」

 

「よっしゃきまりぃ! あと、なんで丁寧語なんだよ! ため口でいいって言ったろ!」

 

「あと、彼について、バイト先ならしょうかいしますので、なにかあったらまた連絡してください」では。

 

「んぁあ、おい!」

 

 

その後来てくれたテルオに勇者を任せて俺はいそいそとバイトに出かけたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

8 天宮・テルオ

 

 

 

「なぁなぁ! お前もボッチなんだろ?」

 

軽口いちばん、そんな失礼なやつだった。

 

 

f:id:illustyuuki:20200605202542j:plain

 

 

普通は顔も知らない奴に対してその態度はたとい大学生であったとしてもない。

 

「ええ、まぁ」

 

その失礼な問いかけに対してのこのワタクシの返答。まさにボッチである。

 

「そっかぁ! マジで俺もぼっちでさぁ!」

 

赤髪に白のパーカー目立つダメージジーンズ。正直彼なら雰囲気的に友人や仲間もいそうなものだが。

 

俺に話しかけにきたのは冷やかしか何かか。

 

「なんの用ですか?」

 

「まぁまぁそう警戒しないでよ! 実は俺全然友達できなくてさぁ

 

 

彼の名前は天宮・テルオ。話を聞くと、どうやら彼はヤンキー上がりだからみんなノリが違くて人が離れていくそうだ。

 

 

「いや、僕もできれば関わりたくないんですが……」

 

「ひどい!そんなこと言うなよ〜もう話してくれる相手がいないんだよぉ」

 

ということは人通り全校生徒と話し終えた後なのだろうか。

 

一応関わりたくないとは言ったものの、彼から悪い気配は不思議と感じなかった。

 

「人が離れていくということはあなたに何か問題があるのではないのですか」

 

「ひどい! じゃぁ一回精査してみてよ! ね? いったん俺とつるもう!」

 

そのノリは完璧に悪友なのだが……「つるもう」とかもう今では死語だし。

 

とはいえろくに話したことのない人に対して偏見で距離を取るのもよろしくない。

 

「まぁ、一回だけなら」

 

「よし!決まり! 今日早速授業後遊びに行こうぜ!!」

 

==========

 

といって連れてこられたのが駅裏のちょっとぴっと治安の悪い繁華街。

 

「あぁ、おれんちここだけど寄っていく?」

 

「いや、怖いからいいです」

 

「人んちに向かって怖いとは失礼だな!」

 

「いやいや頭おかしいんか! 家族というか完璧に「ファミリー」じゃないですか」

 

「え? なんてぇ? ごめん、俺にあんまり横文字使わないでくれ」

 

この人よく虹ヶ丘入れたな。

 

連れてこられた場所が繁華街で、家と言われる場所がおおよそ麻薬の取引現場で使われるような建物。これのどこに不信感をもたないようにできるというのだろうか僕は悪くない。

 

「はぁ、普通の大学生はまず繁華街にそんな来ないし。来たとしても……その、お店とか一軒屋以外の施設にそんな入ろうとしないよ。人によりけど」

 

「ええええ、そうなのか!」

 

「うん」

 

なるほど、この人に友達ができない理由がわかったぞ。

 

結局その日は繁華街から離れ、近くの公園で砂遊びして終わった。

 

「意外と酒なくても楽しいもんだな!」

 

 

 

 

 

 

あの日、肩をぶつけられて以来、やたら人に話しかけられる。

 

余談なんだけど、今日繁華街の路地裏でヒカリさんみたいな人を見かけたのだが気のせいだろうか。男を二人ボコボコに殴っていたが、きっと気のせいだよな。